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判例集2019.02.05

在留変更申請不許可処分取消請求控訴事件

判例集2019.02.05

大阪高等裁判所判決平成10年12月25日 判決

要旨)

法務大臣が「短期滞在」のビザで本邦に在留する外国人に対してした「日本人の配偶者等」のビザへの在留資格変更不許可処分の取消請求が、当該外国人とその日本人配偶者との婚姻関係は破綻状態にあったと認められるものの、同外国人には日本人の配偶者としての活動を認めることが十分に可能であるから、同外国人は「日本人の配偶者等」としてのビザを有するとして、認容された事例

主   文

一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対して平成7年3月30日付けでしたビザの変更を許可しない旨の処分を取り消す
三 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一 当事者の求める裁判

一 控訴人
主文と同旨

二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 事案の概要

次のとおり、付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」(3頁7行目冒頭から12頁10行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決3頁7行目冒頭から4頁3行目末尾までを次のとおり改める。
「一 本件は、出入国管理及び難民認定法(平成元年法律第79号による改正後のもの。以下、改正前の同法を「旧法」、改正後の同法を単に「法」という。)2条の2及び別表第二所定の「日本人の配偶者等」のビザで日本に滞在していたタイ王国国籍の女性である原告が、その後、夫と別居していたこと等から右在留期間の更新を拒絶されたため、法2条の2及び別表第一の3所定の「短期滞在」のビザに変更して滞在していたが、再び右別表第二所定の「日本人の配偶者等」のビザへの変更許可申請をしたところ、これに対し、被告は、平成7年3月30日付けで、右変更を不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたので、被告に対し、本件処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案℃ある。」

2 同5頁9、10行目の「在留期間の更新を認める」を「法21条3項所定の在留期間の更新を適当と認める」と、同一○行目の「同年」を「平成6年」と改める。

3 同6頁6行目の「被告は、」の次に「法20条3項所定の」と加える。

4 同7頁8行目の「民法752条」の次に「参照」と加える。

5 同8頁7行目の「求められる」を「認められる」と改める。

6 同9頁10行目の「原告について]を「原告の本件申請に対し、法20条3項所定の]と改める。

7 同11頁8行目末尾に改行のうえ、次のとおり加える。
「なお、原告は、平成6年の在留期間更新許可申請を不許可とした処分を争うことなく、自らの意思に基づき、希望するビザを「出国準備」を理由とする「短期滞在」に変更申請をし、これが許可されたものである。したがってビザの変更を求める本件申請には、変更の必要性及び相当性並びに法20条3項但書の「やむを得ない特別の事情」が必要であるところ、仮に右の平成6年の不許可処分が違法であるとしても、後者の処分は前者の処分を前提とするものではないから、前者の処分の違法性を承継しないし、変更の必要性及び相当性並びにその他にやむを得ない特別の事情を認めるに足りる事情も存在しない。」

8 同11頁11行目の「継続していたし、」の次に「現在においても甲野との同居を望み、同人との婚姻関係を継続する意思を失っていないし、」と加える。

9 同12頁3行目の「欠くものであり、」を「欠くものである。」と改め、同3行目と4行目との間に改行して次のとおり加える。
「仮に、原告と甲野との婚姻関係が本件処分時において破綻していたとしても、その責任はもっぱら甲野にあり、離婚となれば原告が精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状態におかれることになるので、甲野からの離婚請求は有責配偶者からの離婚請求として認容されないものである。それにもかかわらず、原告が被告の本件処分により国外退去を強制されれば、その後に甲野から離婚訴訟が提起されても事実上これに応訴することはできなくなり、右の点についての裁判所による司法判断を経る機会を奪ってしまう結果になる。したがってこの点を看過している点において、被告は評価を間違っている。」

10 同12頁4行目の「また、原告が甲野の不貞、遺棄のために別居を余儀なくされ、」を、改行のうえ「また法20条3項但書の点については、原告は被告に右の諸事情を無視され、平成6年の」と改める。

11 同12頁6、7行目の「受けたものであることを考慮すると、」を「受けたものである点を考慮すべきである。」と改め、改行して、[これらの諸事情を考慮すると、原告の本件申請には、法20条3項本文及び但書所定のビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由及びやむを得ない特別の事情があるのであって、これを拒否した本件処分は、」と改め、さらに同9行目の「裁量権の裁量権」を「裁量権」に改める。

第三 当裁判所の判断

一 争点一について

1 当裁判所は、控訴人は、本件処分当時、法2条の2、別表第二のビザである「日本人の配偶者等」に該当し、当該ビザが認められるための要件を具備していたものと判断する。その理由は、「日本人の配偶者等」の意味について、次の2のとおり解するところ、控訴人には、次の4のとおりの事由があり、これに該当すると判断するからである。以下順次述べる。

2 法2条の2、別表第二の「日本人の配偶者」の意味

(一) 当裁判所も法2条の二、別表第二のビザである「日本人の配偶者など」のうち、日本人の配偶者の身分又は地位に該当するためには、単に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず、日本人の配偶者としての活動が必要であると解する。その理由は、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」の一の1(一)(13頁二行目冒頭から15頁三行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(二) そこで、次に右(一)に示した日本人の配偶者としての活動とは何かについて検討すると、法2条の二の別表第二のビザである「日本人の配偶者等」に関して、法は、日本人の配偶者としての活動の内容を個別、具体的には定めておらず、その活動範囲等を具体的に認識させるような規定も見当たらないから、同法の趣旨、目的、制度の構造等諸般の事情を斜酌したうえ、我が国で適用される法例以下の国際民事法(準拠法としての日本民法を含む。)の諸規定並びに国内法としての日本民法とその解釈及び条理などをも参考としながら、社会通念にしたがって判断するほかない。ところで、一般に日本人の配偶者としての活動としては、当該配偶者と同居し、協力、扶助しあう場合(法令14条、民法752条参照)が通常ではあるが、それにとどまらず、例えば、単身赴任で別居中であったり、双方の合意に基づいて離婚するか否かを考えるために当分の間別居中である場合などを含み、さらに夫婦関係が既に破綻して別居しているような場合にあっても、外国人である配偶者が離婚について合意せず、かつ、日本人である配偶者が不貞や悪意の遺棄を行うなどして、明らかに有責配偶者に該当し、離婚訴訟を提起しても、これが認容されないようなとき(法令16条、民法77○条1項5号参照)は、未だ当該外国人である配偶者の日本での在留は、特段の事情がない限り、日本人の配偶者として活動しているものと評価でき、別表第二の「日本人の配偶者等」に該当すると解すべきである。けだし、右のような場合には、その在留が通常、前記の法の目的に反することはないし、また、右両配偶者の身分関係にひゃ、法令と大部分の場合準拠法として日本民法が適用されるところ、法別表にいう「日本人の配偶者」の概念はもとより同法独自の立場から決めるべきことは当然であるが、同じ日本法である右法例、日本民法の使用するそれと著しく□離した意味付けをすることは、日本法間における用語の統一を乱し、ひいては制度、善良の風俗等に混乱を生じさせるおそれがある。具体的に見ても、日本人の有責配偶者の不貞等により婚姻関係の破綻に追い込まれた外国人である配偶者が、それにもかかわらず、日本から退去させられ、ますます夫婦間を疎遠に追いやられ、さらに地理的、経済的、社会的、言語的な障害等により、事実上、自らの権利(婚姻費用分担請求権等)も行使困難になり、極端な場合、日本人有責配偶者から離婚訴訟を提起されても事実上これに応訴できなくなってしまう(子の親権者の指定、財産分与、慰藉料請求権の行使についても音字)ことになり、著しく正義に反する結果を将来する危険があるし、このことは国際化する婚姻関係の中にあって、社会理念や通念にも合わないと考えられるからである。

(三) なお、この点に関し、控訴人は、「日本人の配偶者等」のビザが認められるためには、日本人との有効な婚姻関係が存在すれば足りる旨主張するが、前記(一)の説示のとおり、右の見解は採用できない。他方、被控訴人の主張及び行政実務は、基本的には前記(一)の解釈と同旨であると認められるが、その具体的な適用に当たっては、当該日本人配偶者の不貞等の有責行為によって婚姻関係が破綻している場合であっても、破綻している事実を重視し、外国人である配偶者はもはや日本人の配偶者としての行動をしていないとして、右ビザを否定する。しかし、この見解は、先に述べたとおり、日本人配偶者の有責性を顧慮していない点において採用の限りではない。

3 そこで、以上の見解に立って、控訴人が本件処分時に法2条の二、別表第二のビザである「日本人の配偶者等」のビザが認められるための要件を具備していたか否かについて検討すると、証拠及び証拠によって認められる事実は、次のとおり、付加、訂正するほか、原判決の第三の一の2の(一)(18頁二行目冒頭から31頁四行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決18頁三行目の「九の1、2、」の次に「27、」と加え、同行目の「検甲一ないし三」を「検甲一ないし11」と改める。

(二) 同五行目の「18及び19、」の次に「23、」と加え、同行目の「原告本人」の次に「、当審における証人畑純一、同控訴人本人」と加える。

(三) 同19頁二行目の「スナックにおいて、」の次に「借金返済のため、求められるまま、」と加える。

(四) 同二○頁二行目の「原告は」を「その後原告は、甲野が原告と正式に婚姻したいと考え、婚姻に必要な書類を用意して夕イに来たので、」と改め、同八行目の「嵩んだこともあって」の次に「甲野には借金があったので、その支払に充てるため」と加え、同九行目末尾に改行のうえ、次のとおり、加える。

「原告は、甲野に昼の弁当を作って持たせるなど、通常の主婦としての仕事もしており、甲野は、原告がやきもちを妬くことを嫌がってはいたが、それ以外に原告が妻として問題があるとは考えていなかった。」

(五) 同21頁四行目の「旅行に出る旨告げて丙川とともに出奔し、」を「旅行に出る、一人で考えたい、待っていてくれなどと告げて、丙川とともに出奔して所在をくらまし、」と改め、同五行目の「同居するようになった。]の次に「なお、甲野は出奔前には、原告の勤務するスナックのママに対して離婚はしないと述べていた。」と加える。

(六) 同六行目の「原告は、」の次に「甲野が彼氏のいる女性と駆け落ちしたと聞かされ、半信半疑のまま、甲野の居場所を探したが、日本の地理に不慣れであり、探すことができなかった。その後、知人の力を借りて、ようやく」と加え、同八行目の「ともに」の次に「原告と甲野の結婚式の写真を持って」と加える。

(七) 同九行目の「これに対し、甲野が、」を「しかし、甲野から」と、同一○行目の「拒否したところ、原告は、」を「拒否されてしまったので、原告は、このまま甲野と別居状態が続いたのでは在留期間更新の許可が下りず、日本に在留することができなくなってしまうのではないかと恐れた。そのため、原告は、離婚する意思は毛頭なかったにもかかわらず、離婚すると言わなければ右更新について甲野の協力が得られないと考え、甲野に対し、」と改める。

(八) 同23頁二行目冒頭から24頁三行目末尾までを次のとおり改める。
「(6)原告は、警察署にも捜索願いを出すなどして甲野を捜し、連絡先が判明してからは、その判明した連絡先である勤務先に伝言を依頼するなどしたが、連絡が取れないまま時が経過した。やがて再び在留期間更新時期が近づいてきたので、原告は甲野に対し、更新手続への協力を求めたところ、甲野はこれに応じて、平成4年3月31日、大阪入国管理局に出頭した。その際、原告は、甲野に、仕事の都合で別居しているが、早く同居したい旨記載された書面を作成してもらい、原告は、これを添付して、希望する在留期間を3年とする在留期間更新許可申請書を同局に提出した。被告は、同年8月一○日、在留期間を1年とする更新許可をした。なお、右甲野に作成してもらった書面内容は、原告が呈示した案文を書き写したものであったが、右案文は、前回更新時に甲野に作成してもらった書面の案文と同様、漢字かな混じり文であり、原告自身が起案した文面ではないと推測される。」

(九) 同24頁四行目の冒頭から同五行目の「求められたことから」までを次のとおり改める。
「(7)原告は、1その後も甲野が戻ってくるのを待っていたが、その見通しがなく、また、次の在留期間更新については協力を得られないおそれがあったため、平成5年初めころ、和歌山県の畑純一弁護士に相談をし、同弁護士に対し、緊急の問題として甲野から在留期間更新手続の協力を求めること、併せて夫婦間が円満になるよう甲野と話し合いを行うことの二点を依頼した。畑弁護士は、本件は、原告と甲野が偶然に知り合って、真撃に交際のうえ、困難を乗り越えて結婚したものであること、しかし、甲野がその後女性を作って原告を捨て別居状態になっていること、それにもかかわらず、甲野が更新手続に協力しないことによって、原告が国外退去になり、その後、甲野が離婚訴訟を起こして勝訴するということになれば誠に理不尽であると考え、右依頼を引き受けた。そして、畑弁護士は、当時の入管行政の実務では夫の不貞によって別居ないし婚姻関係破綻に追い込まれている外国人である妻の場合でも、別居等の事実があれば、これを理由として日本人の配偶者等に該当しないとして扱われているので、原告が不許可処分を受けてしまうと、取消素訟でその不当性を争う道は事実上はなはだ困難であるし、また、原告の依頼の趣旨が夫婦関係の円満解決にあったことから、平成5年3月4日、和歌山家裁新宮支部に夫婦間の協力扶助請求の審判及び審判前の保全処分を申し立てた。そして同月25日の保全手続の審問期日において、原告と甲野との間で、在留期間更新手続について協力すること、夫婦間の正常化についても今後話し合って行くという話がされたことから、同弁護士は、当事者間の話合いに委ねることにした。その結果、甲野は」

(二) 同25頁二行目冒頭から26頁八行目末尾までを次のとおり改める。
「(8)しかし、その後も原告と甲野との間で夫婦関係正常化に向けての話し合いは進まず、再度の在留期間更新手続の時期が近づいたが、これへの甲野の協力も難しくなったため、原告は、再び畑弁護士に相談をした。これを受けて、畑弁護士は、甲野に対し、夫として協力する義務があることなどを話して説得したのに対し、甲野は離婚届を渡してくれれば、最後に一度だけ協力する旨回答した。畑弁護士は、甲野が協力しなければ、在留期間更新の許可はおりないだろうと判断し、原告に対し、本来、甲野は有責配偶者であり、離婚を甲野から求められる筋合ではないが、甲野の協力がないと在留期間の更新が難しいこと、甲野から協力を得るため、やむなく同人と取り引きして甲野の離婚届作成の要求を一定の条件のもとで受け入れて同弁護士が原告から離婚届を預かる方も考えられるが、この場合には、その期間中に原告の気持ちが整理できなくて、離婚届の返還を求めても、返還できなくなることなどを説明したところ、原告は、甲野との取引に応じたくはないものの、それでは在留期間更新許可を得られず、日本から退去を求められ、事実上、話し合いができなくなることから、真実は離婚する意思はなかったものの、同弁護士が甲野と原告の立場を考慮して作成した甲野宛ての書面を写し、離婚届とともに同弁護士に交付した。右書面には、離婚をし他の人と結婚する決心がつかないので、更に二回在留期間更新手続に協力をしてほしい旨及び翌年4月を経過すれば離婚届を畑弁護士に預ける旨が記載されていた。原告が二回の協力を求めたのは、直ぐに離婚を考えられる状況にはなく、甲野が悪い女性との関係に眼を醒まして原告のもとに戻るのに時間が欲しかったためであった。なお、右書面中に原告が交際している男性がいるかのような記載があるが、畑弁護士には具体的な人についての心当たりはなかった。」

(二) 同27頁八行目末尾に「なお、畑弁護士は、右のとおり、甲野の協力は得られたものの、結果的に更新が不許可となったことから、原告から預かっていた離婚届を原告に返還した。」と加える。

(二) 同29頁八行目冒頭から一干頁四行目末尾までを次のとおり改める。

(11) 原告は、甲野が丙川と出奔した後も、甲野が丙川と別れて戻ることを期待して、ホステスとして稼働しながら、甲野の持ち物を処分することなく、肩書住所地で生活をしていた。原告は、平成3年初めころに甲野の勤務先で同人と話し合った後も、甲野と接触を求めたが、勤務先にしか電話はなく、甲野がいないときは取り次いでもらえないので、なかなか会うことができず、調停及び在留期間更新手続の機会にしか、話し合うことができなかった。原告は、在留期間更新手続の協力を得るため、3年間の更新許可がされれば離婚を考える旨の発言をしたことはあるものの、本件申請に至るまで甲野と離婚をする決心はついていなかった。また、原告は、右のとおり稼働しており、甲野の扶助を受けなくても生活は可能であったので、女性と同棲し子供のいる甲野に対し、生活費の支給を求めることはしなかった。

(12) 甲野は、原告のもとから出奔して以来、丙川と同棲し、同人との間で丙川一郎(平成4年12月一干日生)、同春子(平成6年一○月29日生)をもうけ、両名を認知している。甲野は、原告に発見されるまで、自分の方から連絡を取って原告との関係をどうするかなどについて話し合おうとしたことはなく、生活費を送ったりしたこともなかった。また甲野は、平成6年6月ころから、丙川の祖父が経営する果物畑の栽培を手伝っており、本件処分当時は、原告との婚姻関係を修復する意思のないことを原告に告げていた。甲野は、出奔して後、原告に対し離婚を求めたことはなく、また、その立場にはないと認識しているものの、できれば離婚したいとの意思を有しており、本件訴訟の結果次第で、裁判を含めて離婚の話をするつもりでいるが、先立つものはなく、具体的な離婚条件などは示されていない。」

4(一) 以上の事実によれば、控訴人は、同棲期間を含めれば、一時、タイ王国に帰国していた期間はあるものの、ほぼ6年間にわたり、甲野と同居生活をし、その間、控訴人は、甲野から見ると、嫉妬心が強いと感じられたことはあるとしても、特に妻として問題があったわけではなかったこと、ところが甲野は、他の女性と不貞行為に及び、旅行に出ると偽って、同女とともに行方をくらまし、その後は控訴人に連絡をすることも、生活費を送金することもなく、一方的に控訴人を遺棄して、その女性と同棲生活を営んでいたものであって、甲野は明らかな有責配偶者であること、本件処分当時、控訴人と甲野との婚姻関係は、別居後4年半が経過し、その間、甲野が丙川と同棲を続け、その間に二児までもうけており、客観的に見れば、再び甲野が控訴人の元に戻って同居することは難しい状態にあり、原告と甲野との婚姻関係は破綻状態にあったことが認められるが、しかし、控訴人は、右当時、甲野との婚姻関係を今後も維持、継続したいと考え、甲野が女性と別れて自分のもとに戻ることを切望しており、甲野も、その間の事情をわきまえ、直ちに原告との婚姻関係を解消しようとは言い出せなかったこと、また、仮に甲野がその時点で控訴人に対し離婚訴訟を起こしても到底認容される余地はなかったこと(法例16条、民法77○条)、そうすると、控訴人の甲野に対する配偶者としての地位は、法的にも十分保護されるべきであり、他に前記の法の目的を害するような特段の事情のない本件においては、本件処分時において、控訴人には日本人の配偶者としての活動を認めることが十分に可能であり、したがって、控訴人は、「日本人の配偶者等」としてのビザを有すると解するのが相当である。

(二) 被控訴人は、この点に関して、控訴人は、平成2年8月以降甲野と別居し、家庭裁判所の調停時や在留期間更新許可申請の際に顔を合わせるだけで、甲野に対し3年間のビザがもらえたら離婚をする旨申し述べ、離婚を約した書面及び署名済みの離婚届を交付するなど、本件処分時には、両者の婚姻関係は完全に破綻し、控訴人も夫婦としての活動を行う意思もその可能性も存在しない状態であり、日本人の配偶者としての活動を行おうとする者に該当しないと主張する。しかし、前記認定のとおり、控訴人は、甲野が女性と別れて自分のもとに戻ると信じて待っていたが、被控訴人に在留期間の更新許可をしてもらえなければ、タイ王国に帰らなければならず、そうなると甲野との同居を回復することも不可能となるため、不本意ながら、離婚をほのめかせつつ、甲野に在留期間更新手続への協力を求めてきたのであり、甲野も、夫としてこれに協力する義務のあることから、右手続に協力してきたものであり、本件処分当時も、控訴人は、甲野と離婚する意思はなかったが、畑弁護士から甲野の要望に応じなければ被控訴人から更新許可を受けることができない旨説明され、将来離婚に応じるような書面を作成したが、その文面においても、離婚の決心はつかず、少なくとも今後2年間は、甲野と離婚できるかについて心の整理をする時間がほしいことを明記し、その間に、甲野が丙川と別れて控訴人のもとに戻るのを待ちたいと考えていたのであり、甲野も、その趣旨を理解して、在留期間更新手続に協力したことが認められるのであり、また、強く甲野の不貞行為を責め、翻意を促して積極的に行動すれば、かえって甲野の離婚意思を強固にすることも懸念されるのであり、円満な解決を求める意味で積極的な働き掛けをしていないからといって、離婚意思を有していると推認することはできないのであって、甲野に対し3年間のビザがもらえたら離婚をする旨申し述べたとしても、甲野に翻意を促す時間がほしかったからと解されるのであり、離婚を約した書面及び署名済みの離婚届を交付するなどしたのも前記の経緯によることを考えると、これらの事実から、両者の婚姻関係は完全に破綻し、控訴人も夫婦としての活動を行う意思もその可能性も存在しない状態であったと判断することはできないと言わなければならない。

二 争点二について

1 被控訴人は、控訴人の本件申請に対し、法20条3項所定のビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして、本件不許可処分を行ったものであり(《証拠略》)、被控訴人の主張によれば、右不許可処分の理由は、「日本人の配偶者等」のビザが認められるためには日本人の配偶者としての活動をし、又、活動する予定であることが必要であると解されるところ、控訴人は、日本人の配偶者としての活動をしておらず、又、離婚意思を有しており、今後も活動する可能性もない状態であり、それにもかかわらず、控訴人は甲野に同居する予定があるとの虚偽の書面を提出させるなどして欺いたものであり、そのような場合は、「短期滞在」のビザを[日本人の配偶者等」のビザへ変更する必要性及び相当性はなく、かつ、同項但書における「やむを得ない事由」も存在しないと判断したことによるものと考えられ、また、右判断に当たっては配偶者である日本人が有責か否かについては考慮されていなかったことは、被控訴人の主張及び弁論の全趣旨により明らかである。

2 しかしながら、前記のとおり、控訴人は甲野との婚姻を継続する意思を喪失したものとは認めることができないのであって、それにもかかわらず被控訴人において、控訴人が離婚意思を有しており、今後も口本人である甲野の配偶者として活動する可能性がなくなったと判断したことは重大な事実を誤認したものと言わなければならず、また、日本人である配偶者が有責配偶者であり、離婚訴訟を提起しても認容されないような場合には、なお、口本人の配偶者としての活動をする余地があることは前記のとおりであ1り、被控訴人は、控訴人がそのような立場にあったことを考慮しなかったのであるから、この点において、その評価を誤ったものとも言わなければならない。

3 ところで、法20条3項は、被控訴人は、ビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができ、「短期滞在」のビザをもって在留する者の申請については、やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ許可しない旨定めているが、右の要件の判断は、法の目的である国内の治安及び善良の風俗の維持などの国益の保持の見地から、当該外国人の在留中の行状、国内外の情勢など諸般の事情を総合して行うべき被控訴人の裁量行為であると解されるのであり、右判断が違法であるというためには、その裁量権の行使が全く事実の基礎を欠き、又は、事実に対する評価が合理性を欠くこと等により社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかなときは、裁量の範囲を逸脱し、又は、その濫用があったものとして、違法になると解するのが相当である。

4 そこで、検討すると、右1及び2記載のとおり、被控訴人は、控訴人が離婚の意思を有しておらず、円満解決を望んでおり、甲野の戻りを待ち望んでいるにもかかわらず、控訴人は離婚意思を有しており、婚姻関係を継続する意思がないと誤認をしたものであるが、離婚意思を確定的に有しているか否かは、日本人の配偶者としての活動を考えるうえで極めて重要な事実であると言わなければならない。また、被控訴人は、相手方である日本人が有責配偶者であるか否かについては、評価の対象とはしていないのであるが、しかし、有責配偶者であるか否かは、離婚訴訟においても、その要件を異にしており、当該外国人において日本人の配偶者としての活動の余地があるか否かを評価するうえでも重要な事柄であると言わなければならない。そうすると、被控訴人がした本件不許可処分は、その裁量権の行使が全く事実の基礎を欠き、かつ、事実に対する評価が合理性を欠くことにより社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであると言わねばならず、したがって、裁量の範囲を逸脱し、又は、その濫用があったものとして違法になると解するのが相当である。

5 なお、控訴人は、甲野に協力を求めて、事実に反する書面を提出するなどして「日本人の配偶者等」のビザについて更新の許可を求めた経緯はあるのであるが、当時、控訴人が、既に甲野と別居しており、甲野は女性と同棲しており、連絡も取りにくい状態にあることなどを話せば、当時の更新手続の運用からすると、日本人有責配偶者への配慮が欠けており、「日本人の配偶者等」の要件を具備しないものとして、更新が不許可とされ、日本に滞在することができなくなる危険が高かったのであり、控訴人が有責配偶者の妻として、日本に滞在するためにはやむを得ない行動であったと見ることもできないものではなく、また、控訴人は、甲野と婚姻して再入国して後は、他に日本国の国益を損なうような行状はなく、かえって在留許可を認めないとすれば、控訴人の円満な解決を求める活動ができなくなるのはもとより、控訴人は生活の資を失い、我が国を最後の同居地として甲野から我が国の裁判所に離婚訴訟等を提起された場合にも、事実上、日本人の妻としての活動が封じられる危険が高く、結果的に日本人の配偶者としての活動をする余地を奪われることになるのであり、これらの点を考えると、右事実に反する陳述をしたなどの事実があるとしても、なお、前記判断を左右するに足りないというべきである。

6 また、本件は、「短期滞在」で上陸した者が日本人の配偶者等への変更を求めたものではなく、既に「日本人の配偶者等」のビザを有しており、その更新を同様の理由で違法に拒絶されたために、やむを得ず被控訴人の指示にしたがって「短期滞在」のビザを取得したうえ、直ちに「日本人の配偶者等」へのビザの変更を求めたものであり、前記認定の経緯を総合すると、別個の処分であるから前記認定の違法性を引き継がないということはできず、変更の相当性及び必要性を認めるべきであり、また、短期滞在からのビザの変更において必要とされる「やむを得ない特別な事情」についても、右同様、これを認めるべきであり、これらの事情がないとして、これを不許可とすることは、前記同様、著しく妥当性を欠くと言うべきである。

二 以上によれば、控訴人の本件請求は理由があるから、これを認容すべきであり、これと異なる原判決は相当でないから、これを取り消し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条、61条を適用して主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 笠井達也
裁判官 孕石孟則
裁判官 大塚正之