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判例集2019.02.05

在留資格変更不許可処分取消等請求事件

判例集2019.02.05

東京地方裁判所判決平成17年7月14日 判決

【事実の概要】 中国国籍を有する原告が,短期滞在から日本人配偶者等へ在留資格変更の許可申請をして,不許可処分を受けた。
収容後、入管法49条1項に基づく異議の申出をしたが、理由がない旨の裁決を受け,退去強制令書の発付処分を受けた。
そこで、 上記各処分の取消しを求めたのが本事案である。

【判決要旨】東京入国管理局長がした在留資格変更不許可処分及び裁決に違法はなく,入管法49条5項に基づき前記裁決を前提として行われた退去強制令書発付処分にも違法はない。

主   文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告東京入国管理局長が平成15年6月5日付けで原告に対してした在留資格変更不許可処分を取り消す。
2 被告東京入国管理局長が平成15年7月25日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告の異議申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
3 被告東京入国管理局主任審査官が平成15年7月25日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,中華人民共和国国籍を有する原告が,短期滞在から日本人の配偶者等へ在留資格変更の許可申請をして,不許可処分を受けるとともに,出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決を受け,退去強制令書の発付処分を受けたのに対し,上記各処分の取消しを求めている事案である。
なお,以下,出入国管理及び難民認定法(ただし,平成15年法律第65号による改正前)を単に「法」と,同法施行規則(ただし,平成15年法務省令第67号による改正前)を単に「規則」と,東京入国管理局を「東京入管」と,被告東京入国管理局長を「被告入管局長」と,被告東京入国管理局主任審査官を「被告主任審査官」と,それぞれ略称する。

1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は,昭和**年(****年)*月*日,中華人民共和国(以下「中国」という。)福建省において出生し,中国国籍を有する女性である(甲1)。
(2)原告は,平成11年8月5日,中国において中国の方式で,A(昭和**年*月*日生。以下「A」という。)と婚姻し(平成11年8月20日証書提出),平成12年1月20日,新東京国際空港に到着し,東京入管成田空港支局入国審査官から,法別表第二に定めるビザ「日本人の配偶者等」,在留期間1年とする許可を受けて本邦に上陸した(甲1,6)。
(3)ア 原告は,平成12年1月24日,東京都町田市長に対し,同市○○〈省略〉を居住地,C(Aの父)を世帯主とする外国人登録法3条1項に基づく新規登録をし,外国人登録証明書の交付を受けた(乙3の1・2)。
イ 原告は,平成13年1月5日,東京入管において,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請をし,同年6月4日,在留期間1年の更新許可を受けた(甲1,乙1)。
ウ 原告は,平成13年12月27日,東京入管において,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請をし,平成14年3月19日,在留期間1年の更新許可を受けた(甲1,乙1)。
エ 原告は,平成14年7月23日,東京都町田市長に対し,Aと協議離婚した旨の離婚届出をし(甲6,乙50の4),同月25日,鎌ヶ谷市長に対し,居住地を鎌ヶ谷市〈省略〉とする変更登録をした(乙3の1)。
(4)原告は,平成15年1月16日,東京入管において,法務大臣に対し,ビザを「日本人の配偶者等」から「短期滞在」へ変更を希望する旨の在留資格変更許可申請をし,同月24日,ビザ「短期滞在」,在留期間90日(在留期限平成15年4月20日)の変更許可を受けた(甲1,乙1)。
(5)原告は,平成15年3月18日,D(昭和**年*月*日生。以下「D」という。)との間で婚姻の届出をした(甲7,乙5の4)。
(6)原告は,平成15年4月2日,東京入管において,法務大臣に対し,Dと婚姻したことを理由として,ビザを「短期滞在」から「日本人の配偶者」へ変更を希望する在留資格変更許可申請(以下「本件申請」という。)をした(乙4)。
(7)東京入管入国警備官は,本所警察署警察官とともに,平成15年5月27日,パブスナック「○○」において,ホステスとして稼働していた原告を摘発し(乙6),同日,東京入管入国警備官は,原告に係る違反調査をした(乙7)。
(8)法務大臣から権限の委任を受けた被告入管局長は,平成15年6月5日,上記在留資格変更許可申請に対する不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をし,同月11日,原告に対し,「あなたの在留状況が好ましいものとは認められません。」との理由により「「日本人の配偶者等」のビザへの変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるとは認められません。」と記載した通知書をもって,同処分を通知した(乙12,14)。
(9)ア 東京入管入国警備官は,平成15年6月10日,違反調査の結果,原告が法24条4号ロに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,被告主任審査官から収容令書の発付を受け,同月11日,東京入管において同令書を執行し,原告を東京入管収容場に収容した(乙13,14)。
イ 東京入管入国警備官は,平成15年6月12日,原告を法24条4号ロ該当容疑者として東京入管入国審査官に引き渡し,東京入管入国警備官は,平成15年6月16日,原告に係る違反調査をした(乙16,17)。
ウ 東京入管入国審査官は,原告に係る違反調査をした結果,平成15年6月26日,原告が法24条4号ロに該当する旨の認定をして,同日,原告にこれを通知し,これに対し,原告は,特別審理官による口頭審理を請求した(乙18,19)。
エ 東京入管特別審理官は,原告に係る口頭審理をした結果,平成15年7月7日,入国審査官の上記認定に誤りはない旨判定して,原告にその旨通知し,これに対し,原告は,法務大臣に対して異議の申出をした(乙20ないし22)。
オ 法務大臣から権限の委任を受けた被告入管局長は,平成15年7月24日,原告からの上記異議の申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,同日,同裁決の通知(乙24)を受けた被告東京入管主任審査官は,同月25日,原告に同裁決を告知するとともに(乙25),同日,退去強制令書を発付し(以下「本件退令発付処分」という。),原告を東京入管収容場に収容した(乙23ないし26)。
原告は,その後,平成15年9月11日,法務省入国者収容所東日本入国管理センターに移収され,平成16年10月14日に仮放免を許可され,現在に至っている(乙41)。

2 争点
争点及びこれに対する当事者の主張の骨子は以下のとおりであり,争点に対する当事者の具体的主張の詳細は別紙のとおりである。
(1)本件不許可処分の違法性の有無(争点1)
原告は,在留資格変更の許否判断には,一定の制約があるとしつつ,①不法就労,②旅券の不正使用への関与,③Aとの偽装結婚,④ビザ認定証明書交付申請における虚偽申告等,⑤他人名義の携帯電話の使用や自己名義預金口座の貸与等を理由に,本件不許可処分が適法であるとの被告らの主張に対し,①及び⑤については,違法性や反社会性が極めて軽微であること,②及び④については,そのような事実はないし,その疑いがあるとしてもこれを考慮することもできないこと,③については,そのような事実がないことを理由として,本件不許可処分において裁量権の逸脱・濫用がある旨主張する。
他方,被告らは,原告主張に係る上記一定の制約はなく,むしろ,短期滞在のビザをもって在留する者の申請については,やむを得ない事情に基づくものでなければならず(法20条3項ただし書),上記①ないし⑤の各事由が存在し,これらを理由に本件不許可処分を行ったことには違法がない旨主張する。
(2)本件裁決及び本件退令発付処分の違法性の有無(争点2)
原告は,本件不許可処分が取り消されたならば,原告は「日本人の配偶者等」の在留資格変更許可申請中の立場になり,従前の「短期滞在」のビザに基づいて在留することを法が許容していることとなるから,本件退令発付処分もまた違法な処分として取り消されるべきであるとし,本件不許可処分が適法とされた場合でも,原告に対し在留特別許可をせずにされた本件裁決は,法務大臣等に裁量権がなく,あっても一定の制約があることを前提として,憲法24条2項,「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(B規約)又は公平・平等原則等に基づく各制約に違反し,法50条1項3号の裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法な処分であり,本件裁決に基づく本件退令発付処分も違法である旨主張する。
他方,被告らは,原告が,在留期限である平成15年4月20日を超えて本邦に不法に残留する者であり,法24条4号ロ所定の退去強制事由に該当するから,法務大臣に対する異議の申出に理由がないことは明らかであるところ,原告について,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するような特別の事情も認められないので,本件裁決及び本件退令発付処分は適法である旨主張する。

第3 争点に対する判断

1 争点1(本件不許可処分の違法性の有無)について
(1)国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかは,専ら当該国家の立法政策にゆだねられているところであって,当該国家が自由に決定することができるものとされている。我が国の憲法上も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利ないしは引き続き在留することを要求し得る権利を保障したり,我が国が入国又は在留を許容すべきことを義務付けている規定は存在しない。
このような前提の下で,法は,我が国に在留する外国人の在留資格変更の許可申請に対し,法務大臣において「ビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」許可するものとした上(法20条3項),特に当該申請が,短期滞在のビザからの変更を求めるものである場合には,「やむを得ない特別の事情」が認められることを要するものとしているところ(同項ただし書),法上,在留資格変更の許否の判断について,必ず考慮しなければならない事項など,その判断を覊束するような定めは何ら規定されていない(法20条2項,規則20条1項,2項,規則別記第30号様式,規則別表3は,在留資格変更の許可申請に当たって提出すべき書類について定めているが,これは,許可申請の方式を定めたにすぎず,在留許否の判断を制約するものではない。)。
そして,元来外国人の出入国管理は,国内の治安と善良の風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定などの国益の保持を目的として行われるものであって,このような判断については,広く情報を収集しその分析の上に立って,時宜に応じた的確な判断を行うことが必要であり,ときに高度な政治的な判断を要求される場合もあり得ることにかんがみると,在留資格変更の許否の判断は,法務大臣の広範な裁量にゆだねられていると解するのが相当である。また,法69条の2,規則61条の2が,法務大臣が地方入国管理局長に対して委任することができる事項から,在留資格変更許可を除外しておらず,同条に基づき法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長の権限も,法務大臣の権限に由来するものであることからすると,法務大臣から委任を受けた地方入国管理局長は,その委任の内容及び管轄等の法が定めた権限の範囲内において,広範な裁量権を行使することができるものと解するのが相当である(なお,地方入国管理局長の権限行使が管轄区域内に限定されるからといって,国益に即した判断ができないというものではなく,より高度な判断を必要とする場合には,法務大臣において自ら判断するのが相当であるが,本件がそのような場合に当たるとは認められない。)。
これらの点からすれば,在留資格変更の許否の判断に当たり,法務大臣等は,当該外国人の在留状況,ビザの変更を求める理由,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案して,上記「相当の理由」の有無について判断する裁量権を有し,特に短期滞在から他のビザへの変更申請については,当該外国人に対し,本来,本邦に入国する外国人が経るべき入国審査の手続を経ないという利便を享受させることになる。したがって,「やむを得ない特別の事情」の該当性判断について,上記のような裁量権を有するものであり,その判断が違法となるのは,当該判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られるというべきである。
本件不許可処分に当たっての裁量権の制約についての考え方は,以上のとおりであって,原告はこの点について,別紙記載のとおりるる主張するが,当該主張は採用の限りでない。
(2)前記前提事実によれば,原告は,本件不許可処分当時,Dと婚姻しており,「日本人の配偶者等」として,法別表第二に類型化された身分若しくは地位を有する者に該当することについては,特段の争いがないから,これを前提としたときに,被告入管局長が,法20条3項に基づく在留資格変更の許否に関し,その裁量権を逸脱し又は濫用して本件不許可処分を行ったものと認められるか否かが問題となる。
そこで,検討するに,前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる的確な証拠はない。
ア 原告は,昭和53年(1978年)1月,中国福建省において出生し,同国内の専門学校を経て,実家の飲食物販売店の手伝い等をしていたものであるところ,父親の勧めにより,平成10年(1998年)11月,兵庫県神戸市所在の日本語学校であるE外語学院あてに,同校日本語学科への入学を希望する旨の入学願書を提出した。これを受けて,同校職員は,原告を同校日本語学科に就学生として受け入れる前提で,同年12月24日,原告を代理して,法務大臣に対し,ビザ認定証明書交付申請書を提出(第1回ビザ認定証明書交付申請)したが,提出資料中,滞在費支弁者である父親に係る納税証明書の勤務先欄並びに戸口簿の学歴欄及び父親の職業欄に切り貼りの跡があり,提出資料が真正なものであるとは認められないことを理由に不交付処分がされた(甲10,乙18,36,37,39,40,原告本人)。
イ 原告は,平成11年(1999年)夏ころ,多数の偽装結婚を仲介していたFの仲介により,原告の実家を訪れたA(昭和**年*月*日生,職業は土木関係)と会って婚姻することとなり,同年8月5日,中国福建省福州市民政局に婚姻の届出をし,Aも,同月20日,町田市長に対し,婚姻の届出をした(甲6,19,乙44,46,原告本人)。
ウ Aは,同年9月3日,東京入管において,法務大臣に対し,原告との婚姻を理由としたビザ認定証明書交付申請書を提出し(第2回ビザ認定証明書交付申請),その後同証明書の交付を受けたが,申請書中の「質問書」欄(乙47の2)と「理由書」欄(乙47の3)については,Fの用意した書面を基に,紹介者を****と記載したり,原告が婚姻前に「靴店」で働いていたなどと真実に反する記載をした(甲18,乙47の1ないし8,同51,原告本人)。
エ 原告は,平成12年1月20日,東京入管成田空港支局入国審査官から,法別表第二に定めるビザ「日本人の配偶者等」,在留期間1年とする許可を受けて本邦に上陸し,同月24日,東京都町田市長に対し,町田市○○〈省略〉を居住地,Aの父を世帯主とする外国人登録の申請をし,同年2月15日,外国人登録証明書の交付を受けた。
なお,上記外国人登録証明書の交付に際し,次回確認の基準日は,平成17年1月23日とされていた。 (以上,甲1,6,乙3の1及び2)
原告は,Aの両親宅と同一敷地内で,数メートルしか離れていない建物において,原告と同居することとなったが,Aの両親がAと原告との結婚には猛反対していたことから,Aの両親と交流することは全くなかった(甲17)。
オ 原告の旅券には,原告が,平成12年3月21日,東京入管において,法務大臣に対し,再入国許可申請をし,同日,1回限り有効の許可を受け,同年4月29日,中国・上海向け出国した記録はあるが,これに対応する再入国の記録はない(乙1,38)。
なお,上記申請に際して提出された再入国許可申請書(乙38)には,電話番号として,090-****-***1番(以下「携帯電話①」という)が記載されているところ,同電話の契約者名は***,契約者住所は,中野区〈省略〉△△ハイム202号と登録されている(乙54)。
カ 原告は,同年8月15日,警視庁町田警察署長に対し,原告名義の旅券を同年7月10日から同年7月15日までの間に遺失した旨届け出た(乙2)。なお,原告は,同年8月15日,中国領事館に対して旅券の再交付を申請するために使用する目的で,上記警察署長に対して遺失の届出についての証明申請書を提出し,同申請書に,原告の電話番号として070-****-****番(以下「携帯電話②」という。)を記載しているが,携帯電話②の契約者の名義は,Fと親交があり,Aの知人でもあるGとなっている(乙2,55)。
キ また,原告は,同日,町田市長に対し,外国人登録証明書の再交付申請をして,同年9月4日に再交付を受け(乙3の1),同年11月15日には,駐日本中国大使館から旅券の発給を受けた(乙58)。
ク 原告は,同年12月18日,東京入管において,被告入管局長に対し,再交付された旅券への証印転記の願書を提出したが,その際一緒に提出した,再交付された旅券及び外国人登録証明書も置いたまま,東京入管を立ち去り,同月20日,Aと共に東京入管に出頭し,上記再交付された旅券に証印の転記を受け,その際,現在,一時的に別居中であるが,離婚する意図はない旨申し立てた(乙58)。
ケ 原告は,平成13年6月4日と平成14年3月19日にそれぞれ期間1年の在留期間更新許可を受けたが(甲1,乙1,48の1ないし6,同49の1),平成15年5月7日,横浜地方裁判所において,日本人と中国人の間の偽装婚姻を斡旋したとして,懲役3年6月の刑の言渡しを受けたFは,上記2回の在留期間更新許可申請書は,いずれも同人が記載したものであり,手数料として原告から3万円から5万円くらいを受領した旨,服役中の静岡刑務所において,平成16年7月及び11月,調査に赴いた入国審査官に対して述べた(乙51,53)。
上記Fが所持していた手帳には,原告の氏名,生年月日と共にその外国人登録証明書の番号(〈省略〉)が記載され,携帯電話番号として,090-****-***2番(契約者及び払い宛先名「*****」,払い宛先住所東京都中野区〈省略〉△△ハイム202。以下「携帯電話③」という。),090-****-***3番(契約者及び払い宛先原告)が記載されているほか,Aについても,氏名,住所,生年月日,携帯電話番号(090-****-***4,090-****-***5)が記載されていた(甲12,乙3の1,45,56,60の1)。
コ 原告は,平成14年1月8日,三重県四日市市所在の**郵便局において,郵便貯金口座(以下「口座①」という。)を開設した(乙59の1及び2)。原告は,口座①を開設するに当たり,申込書に,電話番号として携帯電話③を記載した(乙56,59の1)。
サ 原告は,同年2月21日,町田市長に対し,同月17日,同市〈省略〉に移転したとして,居住地変更登録申請をした(乙3の1)。
シ 原告は,同年3月1日,携帯電話090-****-***6番(以下「携帯電話④」という。)及び090-****-***5番(以下「携帯電話⑤」という。)の利用契約を締結した(乙61,62)。なお,携帯電話④,⑤については,平成15年3月2日に,3か月以上の料金滞納を理由に強制解約された(乙63,64)。
ス 原告は,同日,町田市所在の***郵便局において郵便貯金口座(以下「口座②」という。)を開設するとともに(乙65),H銀行町田支店において,普通預金口座(以下「口座③」という。)を開設したが(乙66の1ないし3),その際,申込書や印鑑届の電話番号欄に,いずれも,携帯電話③を記載し(乙56,65,66の1),口座②,③については,本邦に不法残留していたIに対し,同人が不法就労により得た金員を預けることを認めていた(甲12,14ないし16,乙74)。
セ 原告は,平成14年4月15日,東京入管において,法務大臣に対し,再入国許可申請をし,同日,1回限り有効の許可を受け,同月25日,中国・廈門向け出国し,同年5月6日,再入国した(甲1,乙1,73,77)。
ソ 原告は,同年5月ころ,当時のアルバイト先である蕎麦店への通勤途中の新宿でDから声を掛けられて同人と知り合い,同年7月ころには同人から交際を申し込まれたのに対し,同人に対してAと結婚していることを打ち明けたが,その後も同人と会い続け,Aとの関係について,最初は優しかったが,冷たくなった旨の話をし,同人から,別れてやり直した方が良いのではないかなどと助言を受けるなどした末(乙11,証人D,原告本人),同年7月23日にはAと離婚した(甲6,乙18,50の4)。
そして,原告は,同月25日からは,千葉県鎌ヶ谷市〈省略〉においてDと同居し,同日,鎌ヶ谷市長に対し,居住地を同所とし,世帯主をDとする変更登録申請をして認められた(甲11,乙3の1,証人D,原告本人)。
タ なお,原告は,その間,同年6月24日に,町田市所在のJ銀行町田支店において,普通預金口座(以下「口座④」という。)を開設したほか(乙67),同年7月25日,東京都墨田区所在のK銀行a支店において,普通預金口座(以下「口座⑤」という。)を開設した(乙68の1ないし3)。
口座⑤については,平成15年9月30日までに入出金回数が多数に及んでいるところ,第三者の名による出金として,「******(平成14年11月11日50万円)」,「*****(平成14年12月18日30万円)」,振込入金として「****」(平成15年2月4日20万円)が記録されていた(乙68の3,同78の1及び2)。
チ 原告は,Dと同居生活を送る中で,Dから結婚の申込みを受け,平成14年末までには同人と結婚することを合意したが,原告の待婚期間が満了する前の平成15年1月20日に,日本人の配偶者等のビザによる在留期間が経過することが判明したことから,平成15年1月16日,Dと共に東京入管に赴き,法務大臣に対し,ビザを「日本人の配偶者等」から「短期滞在」に変更する旨の本件申請をし,同月24日,ビザ「短期滞在」,在留期間90日の変更許可を受けた(甲1,乙1,11,18,50の1ないし4,証人D,原告本人)。
ツ 原告及びDは,その後,同年3月18日,必要書類を揃えて,千葉県鎌ヶ谷市長に対し,婚姻の届出をした(甲7ないし9,乙18)。
なお,Dは,当時,建築関係の有限会社に専門技術職として勤務し,約37万円の月収(手取り)を得ていたが,景気の悪化に伴い減収傾向にあった上,月額5万5000の家賃のほか,合計300万円を超える債務につき月13万円程度の返済を行っており,預貯金も僅かで,経済的に余裕がなかったことから,結婚式は行わなかった(乙4,5の1,5の9及び5の10,11,50の7,70の1及び2,71,72,証人D)。
テ 原告は,同年3月ころ,知人の中国人女性から,同人が勤めるパブスナック「××」を手伝うよう声を掛けられ,上記ツのようなDの経済状況を聞いていたことや,結婚式を挙げるための資金等を得ようと考えていたことなどから,Dと相談し,両名で上記店舗の雰囲気等を現地で確認した上,週1回(火曜日),午後8時半から午後11時30ころまで,終電に間に合うよう帰宅する約束の下,時給1300円(後に1500円)の条件で上記飲食店に勤務するに至った(以下「本件不法就労」という。乙7ないし11,18,証人D,原告本人)。
ト 原告は,同年4月2日,Dと共に東京入管に赴き,法務大臣に対し,Dと婚姻したことを理由として,ビザを「短期滞在」から「日本人の配偶者等」に変更する旨の本件申請をした(乙4,5の1ないし10,証人D)。その際,在留資格変更許可申請書の職業欄に「無職」と記載する一方,特に稼働の事実について,東京入管職員に申告したり,質問することはなかった(乙4,原告本人)。
ナ 東京入管入国警備官は,本所警察署警察官とともに,同月27日,パブスナック「××」において,ホステスとして稼働していた原告を摘発した(乙6)。その結果,原告が上記飲食店で稼働して得た収入は約8万円となった(証人D,原告本人)。
ニ 原告は,上記摘発の当日,千葉県船橋市所在のJ銀行b支店において,普通預金口座(以下「口座⑥」という。)を開設した(乙69)。Dは,口座⑥について,仮放免が許可された平成16年10月14日の翌15日から同月27日にかけて,計90万円の入金及び85万円の出金があり,それが仮放免の保証金に関するものであることは知っているが,これを誰からどのように調達したかは,原告から知らされておらず,原告の口座①ないし⑥の開設状況や内容,携帯電話①ないし⑥の契約内容や解約の状況等をはじめ,原告の資産関係については把握していない(証人D)。
ヌ なお,原告は,平成15年5月4日から6日にかけて,Dが京都の実家の帰省したのに同道し,Dの母親等の親族と交流しているほか,平成16年10月14日に仮放免を許可された後も,Dと同居を続けている(乙27,証人D)。
他方,原告の家族としては,父母及び2人の兄が,中国に在住している(乙14)。
(3)以上の事実を基に判断するに,原告は,本件不許可処分当時,既にDと婚姻し,日本人の配偶者等としての実質的基盤を有していたから,本件不法就労を理由に不許可処分を行う必要性がなく,また,本件不法就労(資格外活動)について,その目的,期間,頻度,収入,認識等に照らすと,違反の程度は著しく軽微であるから,これを理由に本件不許可処分を行うことはできない旨主張する。そして,不法就労の違法性について,就労時に「短期滞在」のビザで就労してはいけないとの認識がなかった旨原告の陳述書(甲11)に記載があり,証人Dもこれにそう証言をしている。
しかしながら,原告が,本件不許可処分当時,Dと婚姻しており,夫婦として同居生活を送っていたことは,「日本人の配偶者等」のビザの変更を認める前提となる事実といえるが,その事実から直ちに日本人の配偶者等のビザへの変更の要件が充足されるわけではない。本件不許可処分が違法か否かを判断するに当たっては,原告の在留状況等をはじめ,本件不許可処分当時客観的に存在した事情を基にすることを要し,過去の法違反の有無,程度を考慮するのみでなく,将来にわたって,申請の対象とされたビザによる在留を認めることが好ましいといえるかどうかに関する一切の事情を考慮することが認められるものと解される。
(4)このような見地から,まず,本件不法就労に関する事実についてみるに,原告は,婚姻の届出をする前に不法就労を開始し,その後,東京入管において,在留資格変更の許可申請を行うに当たり,申請書の職業欄に無職と記載しており(前記(2)ト),原告が不法就労の違法性を軽視しているとの評価は免れないところである。そして,今回摘発されなければ,更に本件不法就労を継続していた可能性が高く,退去強制事由に当たらない不法就労であっても,法70条1項4号,73条により刑罰の対象とされていることにかんがみると,原告主張に係る本件不法就労の目的,期間,収入等の事実から,本件不法就労の事実が,在留資格変更許否の判断の基礎とすることができないほど軽微なものということはできない。
なお,原告は,本件不許可処分は,実質的に法24条4号イ(退去強制事由)を潜脱し,違法性の軽微な不法就労により実質的に退去を強制するものであることから,不法就労を理由に本件不許可処分を行うことはできないとも主張する。しかし,在留資格変更許可の申請に対する応答が不当に遅延した結果,当該申請者において資格外活動を余儀なくされるなどの特段の事情が認められる場合は格別,そのような事情がうかがえない本件の事実関係の下で行われた本件不許可処分が法24条4号イを潜脱するものということはできず,また,以下にみるとおり,本件不許可処分の違法性の有無が,本件不法就労のみを基礎に判断されるものではないことから,原告の上記主張は当たらないというべきである。
(5)次いで,原告の旅券の不正使用への関与についてみるに,原告は,自己の関与を否定し,友人と町田駅付近で買い物中,友人の自転車のカゴに置いておいた財布在中のバッグを盗まれた際,旅券についても盗まれたと思うが,当時すぐにはそのように思わず,旅券がないことに気付いたのは,バッグを盗まれてから約1か月後,外国人登録証を作成しようとした折りであること,ただし,旅券の紛失時期については記憶があいまいであること等を供述する(乙14,20,原告本人)。
しかしながら,原告が紛失したという平成12年2月15日交付に係る外国人登録証については,次回確認の基準日が,平成17年1月23日とされていたのであり(前記(2)エ),外国人登録証を作成する必要から紛失に気付いたというのは不合理である。また,その主張に係る盗難の時点で外国人登録証も盗まれたことに気付いていたとすれば,財布在中のバッグについて盗難の届出をしておらず,遺失の届出を,盗難にあったという日から約1か月も経過した時点で行っているのも,不自然,不合理である。かえって,東京入管の入国警備官による違反調査(4回目)において,「旅券を無くしたのは,平成12年夏ころのことで,旅券を無くすまで,私の手元を離れたことはありません」と供述していること(乙15)や,原告名義の平成12年3月21日付け再入国許可申請書(乙38)に,原告の当時の「居住地」,「外国人登録証明書の番号」等が記載され,同申請書の電話番号欄に記載された携帯電話①の契約者住所が,原告が別途借り受けていた携帯電話③の契約者住所と一致していたことを総合すれば,原告は,少なくとも平成12年3月21日において旅券を紛失しておらず,第三者が原告の旅券を利用して不正に出国することについて,これを容認し,自ら東京入管に出頭し,あるいは,第三者が原告を装い,原告の旅券を不正使用するのに協力するなどして関与していたものと推認され,この推認を覆すに足る的確な証拠はない(なお,乙38の再入国許可申請書の筆跡が原告の筆跡と異なるとしても,そのことから,原告が旅券の不正使用に関与していなかったということはできない。)。
(6)さらに,その余の事情について検討するに,前記認定事実によれば,原告は,第1回目の本邦入国時に,Aとの婚姻に基づき,日本人の配偶者等のビザによる上陸を許可されたものであるが,婚姻の経緯をみると,数多くの偽装結婚を仲介してきたブローカーの関与のもと,日本語に通じているわけでもない原告が,ごくわずかな期間会っただけのAと婚姻するに至ったものであり,至近距離に居住していたAの両親との交流が全くなかったこと,原告において,Aとの婚姻後も,同郷の中国人の携帯電話番号を使用し,旅券の遺失の届出に当たっては,Aではなく,Aの知人で,Fと親交のあるGに遺失届の記載をしてもらい,連絡先としても,A宅ではなく,上記Gの住所を記載していることや,Fに在留期間更新の手続をしてもらっていること,また,原告が,第1回ビザ認定証明書交付申請時も,真に日本の学校に入学する意思もないのに,父親に言われるままに虚偽の書類を提出することを容認していたこと,早期に離婚に至ったことなどの事情を併せ考慮すると,Aとの婚姻は,その元来の目的は専ら日本への入国の手段とするものであって,Aとの同居の事実は必ずしも否定できないものの,原告とAが,永続的な精神的及び肉体的結合を目的とした真摯な意思をもって共同生活を営む意思を有していたかについては,強い疑念を抱かれてもやむを得ない関係にあったということができ,本件申請に対する在留資格変更の許否の判断に当たり,このような意味での前婚の存在を少なくとも原告に有利な事情として斟酌することはできないといわざるを得ない。
かえって,原告が,本邦入国時から婚姻後に至るまで,偽装結婚ブローカーの関与を受け続けており,他方,原告の実家の父親において,第1回ビザ認定証明書交付申請に際し,虚偽の記載をしてでも,原告を日本に入国させようとし,原告においても,積極的ではないにせよ,自らの出国に関する書類に虚偽の記載がされることを容認していたものとみられること(前記(2)ア)等の事実は,本件申請に対する在留資格変更の許否の判断に当たり,原告に不利に働く事情として斟酌することが認められるものというべきである。
(7)また,原告は,在留期間中に,多数の預貯金口座を開設したり,複数の携帯電話の利用契約を締結し,上記口座及びこれに係るキャッシュカード並びに上記携帯電話番号を第三者に利用させていたもので,特に,口座②及び③については,不法就労により得た金員を預かる趣旨で知人に使用させていたものである(前記(2)カ,ケ,コ,シ,ス,タ,ニ)。
ところが,原告はその本人尋問において,これらの多数の口座を開設した理由について問われた際,「特に理由はない」,「口座を作りたかっただけ」であるなどとと供述し,口座等の貸与について,いったんは口座を他の人に貸したことはない旨供述しながら,反対尋問を受けて,これを翻し,第三者に口座を使用させたり,キャッシュカードを貸したりした事実は認めつつ,その趣旨,原因については,分からないとか,あいまいな供述にとどまっている。これらの供述は,自己の預貯金口座や携帯電話の使用状況に関する供述としては,不自然,不合理といわざるを得ず,原告が自己名義の口座の利用実態を隠そうとする意図をうかがわせるものといえる。
このような口座や携帯電話の使用状況は,ビザのある原告の名義等を利用して,不法就労の援助・助長につながる行為が行われていたことを示すものであり,原告がそのような行為を容認してきたことは,出入国管理の適正を害するものとして,在留資格変更の許否を判断するに当たり,看過できない事情ということができる。
(8)以上によれば,本件不許可処分は,原告の継続的な在留状況や行動態様,そしてそれがビザ制度の適正に及ぼす影響等を基礎とするものということができ,これらの諸事情に加え,原告とDの婚姻期間が,平成15年3月18日から本件不許可処分(平成15年6月5日)まで3か月に満たず,本件不許可処分を受けるまでの同居期間も1年に満たず,Dにおいて,原告の預貯金や携帯電話の契約,解約の状況も把握していないこと(前記(2)ニ),本件不許可処分時に原告とDとの間には未成年子がいるとは認められないこと,原告が,中国で生育した成人であり,両親や兄弟も中国にいること等の事情を併せ考慮すると,本件不許可処分が,全く事実の基礎を欠き又は著しく社会的妥当性を欠くことが明らかであると認めることはできない。
したがって,被告入管局長が,本件不許可処分を行うについて,その裁量を逸脱又は濫用したものとは認められず,本件不許可処分に違法はない。

2 争点2(本件裁決及び本件退令発付処分の違法性の有無)について
(1)前記前提事実によれば,平成15年4月20日の経過により,原告は,短期滞在のビザによる在留期間が満了し,本邦に不法残留するに至ったものとして,法24条4号ロの退去強制事由(在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者)に該当するものと認められる。なお,原告は,本件不許可処分が取り消された場合に,在留資格変更許可の申請中の状態となるから,それ以前に退去強制処分に付すことはできない旨主張するが,本件不許可処分の取消しが認められないことは,先に判断したとおりであるから,原告の上記主張は前提を欠くものである。
(2)ところで,法50条1項は,法務大臣が,当該容疑者が退去強制事由に該当するか否かについて審理し,同法49条1項に基づく異議の申出が理由があるかどうかを裁決するに当たって,当該容疑者について同法24条各号に規定する退去強制事由が認められ,異議の申出が理由がないと認められる場合においても,当該容疑者が,①永住許可を受けているとき,②かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき,③特別に在留を許可すべき事情があると認めるときには,その者の在留を特別に許可することができるものとしており,同法50条3項は,同法49条4項の適用については,上記の許可をもって異議の申出が理由がある旨の裁決とみなすと定めている。
しかし,法令上,その許否の判断について,必ず考慮しなければならない事項など,その判断を覊束するような定めは何ら規定されていないことや,前記1(1)でみた外国人の出入国管理の特質に加え,在留特別許可の対象となる容疑者は,既に同法24条各号の規定する退去強制事由に該当し,本来的には本邦から退去を強制されるべき地位にあることを併せ勘案すると,在留特別許可をすべきか否かの判断は,法務大臣の,在留資格変更の場合におけるより広範な裁量にゆだねられているものであり,この理は,法69条の2,規則61条の2に基づき,法務大臣から在留特別許可に関する判断の権限を委任された地方入国管理局長についても妥当するものと解される。
これらの点からすれば,在留特別許可の許否の判断について,法務大臣等は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正を図る観点から,当該外国人の在留状況,特別に在留を求める理由,国内の政治,経済,社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案して,その許否を判断する裁量権を有し,その判断が違法となるのは,当該判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られるというべきである。
(3)上記のとおり,在留特別許可の許否の判断については,在留期間の更新又はビザの変更の許可の場合よりも広範な裁量権が認められると解されるところ,前記1でみた,本件不法就労に関する事実に加え,旅券の不正使用への関与,本邦入国の経緯,偽装結婚ブローカーとの関係,Aとの前婚の実体,預貯金口座や携帯電話番号の貸与等,原告の在留状況に関する好ましくない事情のほか,原告とDの婚姻期間が短く,養育すべき子が存在しないこと,原告が中国で生育した成人で,両親や兄弟等が中国に在住していること等の事情にかんがみれば,原告とDとの婚姻及び同居の関係の存在等を斟酌しても,原告に対して在留特別許可を付与せずに行われた本件裁決が,全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用してされたものとは認められない。
原告は,本件裁決は,原告とDとの婚姻の自由を侵害し,憲法24条2項,B規約17,23条の規定に反するから違法である旨主張するが,憲法上,外国人が本邦に在留を求める権利が保障されていないと解すべきであることは前記1(1)のとおりであり,本邦に在留する外国人は,法に基づく外国人在留制度の枠内でのみ,憲法の基本的人権の保障が与えられているにすぎないといわざるを得ないのであって,在留の許否を決定する国家の裁量を拘束するまでの保障が与えられているものと解することはできない(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。
また,B規約は,その13条において,法律に基づいて行われた決定によって,外国人が退去強制されることを前提とした規定を設けていることからも明らかなとおり,外国人を自国内に受け入れるかどうか,またこれを受け入れる場合にいかなる条件を付すかは専ら当該国家の立法政策にゆだねられているという国際慣習法を前提とする条約であるから,憲法の諸規定による人権保障を超えた利益を保護するものではなく,B規約17条及び23条が,同13条の例外として,法律に基づいた決定によっても,締約国内に存する外国人家族を退去強制することができないことを定めたものと解することはできない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(4)以上によれば,本件裁決に違法はなく,法49条5項に基づき本件裁決を前提として行われた本件退令発付処分にも違法はない。

東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官  大 門   匡
裁判官  関 口 剛 弘
裁判官  菊 池   章

(別紙)

(1)本件不許可処分の違法性の有無(争点1)

(原告の主張)
ア 在留資格変更の許否判断における制約
(ア)法務大臣の裁量権に対する制約
法20条3項は,在留資格変更申請があった場合には,法務大臣は,当該外国人が提出した文書によりビザの変更を適当と認めるに足りる相当な理由があるときに限り,これを許可することができる旨規定しているところ,同規定に基づき法務大臣が有する許可,不許可の処分権限(法69条の2,規則61条の2第6号により地方入国管理局長に委任されたもの)は,法により付与されたものである以上,その裁量権も,同法の規定するビザ制度の趣旨による制限を受け,処分の種類,申請に係るビザの種類等によって許容範囲や内容が異なるものであり,さらに,法の一般原理である公平の原則や比例原則の適用を受ける結果,恣意的差別的な取扱いは許されず,当該法違反の度合いに応じて法律上の不利益が与えられるべきとの制約を受けるものであって,国際慣習法上外国人の出入国が国家の主権に属する事柄であることから当然に広範な裁量権が帰結されるものではない。
(イ)法20条3項の「相当」性の判断における制約
法20条3項所定の「相当」性の判断に当たっては,第一次的に,法20条3項,2項,規則20条1項,2項,規則別記第30号様式,規則別表3で規定された書類を使用することとされており,これらの資料が提出された場合には,提出書類に疑義や不備があったり,提出書類から認められる事実とは別に在留状況に関する事情が存在するなどの場合を除き,原則として「相当の理由」があるものと認められ,更に「相当の理由」を証明することは要しないものと解するのが正当であり,実務上の取扱いもこのような解釈に従っているものといえる。
このように,法20条3項の「相当の理由」の要件に関する法務大臣の裁量は,上記法令により定められた文書以外の事情によって当該申請者の在留の継続を適当でないと判断する場合に,いわば許可を阻却する事由の判断において行使されるものであり,当該申請者の「ビザ該当性」及び「相当の理由」が一応認められる場合においてなお,その者の在留を拒否すべき事由の有無を判断するために必要かつ合理的な範囲においてのみ認められるものであって,被告らが主張するような極めて広範なものではないというべきである。
(ウ)地方入国管理局長の裁量権
在留資格変更許可申請に対する許可,不許可の処分権限は,法69条の2及び規則61条の2により法務大臣から地方入国管理局長に委任されているが,地方入国管理局は,法務省入国管理局の下に8つある地方入国管理局の一つにすぎず,管轄区域内における在留及び退去強制の実務及び組織体の維持運営をその業務内容とし,外国人の在留による日本の社会・経済・外交等に対する影響等の調査研究や,入国管理行政に関する施策の策定,高度な政治判断をその職務として予定された部門は存在しない。被告入管局長は,東京入国管理局の長として,管轄地域における外国人の在留状況や,過去の在留特別許可に関する取扱いについて通暁するにとどまり,法務大臣のように閣議に出席して内閣の一員として国会に対して責任を負うこともないのであり,高度な政治的判断を行うことは組織上予定されておらず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情を,法務大臣と同じように掌握できる制度的保障は存在しないのである。そもそも,国家主権の行使の場面であり,全国に共通した基準によって運用されなければならない入国管理行政が,個々の地方入国管理局長の裁量によって自由に判断し得るということ自体,背理であり,法務大臣がその権限を委任するものである以上,何らかの委任の趣旨に基づく制限が当然に存在するのであり,国家主権の行使という事柄の性質上,その制限はより一層厳格なものとなるはずである。
このような見地から,地方入国管理局長は,法務大臣と同等の広範な裁量権を有するものではなく,相当程度に制限されたものであるというべきである。
(エ)法20条3項ただし書の「やむを得ない事情」の要否について
原告は「短期滞在」への変更申請に当たり,Dとの婚姻の目的及び婚姻成立後に再び「日本人の配偶者等」への変更申請を行う予定であることを明示していたものである。被告入管局長は,上記申請を受けてこれを許可し,その際,「出国準備期間」,「FINAL EXTENTION」,「PREPARATION PERIOD OF DEPARTURE」等のスタンプを押捺しなかったが,このことは,上記変更許可処分の時点において,原告が観光目的や出国準備の目的ではなく,Dとの婚姻目的で「短期滞在」への変更申請をすることを認識し,かつ婚姻成立後に再び「日本人の配偶者等」への変更申請を行うことを許容して,上記処分を行ったことを示すものである。
したがって,婚姻成立を受けて行った「日本人の配偶者等」への変更許可の申請に対し,「やむを得ない特別の事情」が存在しないとしてこれを不許可とすることは許されないものである。
本件不許可処分の通知書において「やむを得ない特別の事情」について触れられていないのも,同要件を要求することを予定していなかったからにほかならず,本訴において「やむを得ない特別の事情」の要件を持ち出すことは,実務を無視した主張といわざるを得ない。

イ 本件不許可処分における裁量権の逸脱・濫用
被告らが,本件不許可処分の理由として主張する,不法就労(資格外活動)の事実,旅券の不正使用への関与の疑い,ビザ認定証明書交付申請における虚偽申告の疑い,他人名義の携帯電話の使用,自己名義預金口座の貸与等の事実は,以下のとおり,違法性が軽微であるか,疑いにとどまること等の理由により,本件不許可処分の根拠とすることができないものであり,法20条3項所定の「相当の理由」があるということができないから,本件不許可処分は,被告入管局長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものというべきである。
(ア)不法就労(資格外活動)の違法性が極めて軽微であること等から,これを本件不許可処分の理由にすることはできないこと
a 原告の資格外活動の目的,期間,頻度,得た利益及び使途並びに原告の認識等に照らすと,その違法性の程度は極めて軽微である。
すなわち,原告の夫であるDには安定した収入があったが,他方で借金もあり,経済的に困難な状況にあったことから,結婚式の費用を捻出するために,就労することとなったものであり,そのきっかけも,たまたま知り合いで,スナックに勤めていた中国人女性から手伝いを依頼されたというもので,原告が自ら高収入を期待してスナックでの就労を希望したものではない。
また,原告がスナックで働いたのは,平成15年3月初めから同年5月27日までの期間のことであり,その条件は,Dの了解の下,週1回,毎週火曜日,勤務時間は20時ころから23時ころまでとされ,原告自身,遅くとも終電には乗り遅れないよう心がけていたものであり,本件就労によって得た利益も,総額8万円程度にとどまり,原告は,これを費消することなく,結婚式の資金として貯蓄していたものである。
原告は,上記就労当時,「短期滞在」のビザを有していたにとどまるが,Aとの前婚の解消後,Dと婚姻するまでのいわばつなぎとして「短期滞在」のビザに変更許可を受けていたものである上,旅行者として本邦に入国した経験もなかったことから,「短期滞在」のビザで働いてはいけないことを認識していなかったものである。
なお,被告らは,外国人による不法就労が増加しているとの認識を前提に,不法就労摘発の必要性を強調し,それゆえに本件においても厳格な態度で臨むべきであると主張するが,原告は,日本での不法就労を目的として「短期滞在」のビザを取得して日本に入国した者や,日本で不法就労し不正に収益をあげながら日本社会に定着を図ろうとする者とは異なるから,上記主張に係る政策目的は,原告に対して厳正処分をすべき根拠とはなり得ないというべきである。
b 「日本人の配偶者等」のビザの実質的基盤を有し,本件不許可処分を行うほどの必要性がないこと
原告は,スナックでの就労開始と相前後して,平成15年3月18日にDと婚姻したものであるが,婚姻前からDと同居生活を営んでおり,その婚姻が形式上にとどまらず,夫婦としての実体を有するものであることは明らかであって,上記就労当時,原告は「日本人の配偶者等」のビザを付与されるための実質的基盤を有し,同年4月2日には「日本人の配偶者等」のビザへの変更許可の申請までしているのであるから,このような原告について,上記就労を理由に本件不許可処分を行うほどの必要性は存在しないというべきである。
c 法24条4号イ(退去強制事由)に比べ違法性の軽微な不法就労を本件不許可処分の理由にすることはできないこと
本件において存在が明確であり,かつ明らかに法に触れる行為は不法就労のみであるから,本件不許可処分は,原告の不法就労を理由とするものであり,また,原告に対して自費出国を検討する機会を与えることなく本件退令発付処分がされた経緯等に照らし,当初より退去強制令書発付処分を行うことを想定して行われたものといえる。
法は,このような不法就労を理由とする退去強制処分の対象者を,「法19条1項の規定に反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる」者と定め(法24条4号イ),不法就労を行った者のうち悪質なケースに限定しており,そこまでに至らない不法就労については,法73条の刑罰規定の対象にはなるが,退去強制の対象とはならないものとしている。
したがって,不法就労を理由にビザ更新・変更を不許可とし,かつ出国準備期間も与えずに退去強制処分に付する手法は,法24条4号イと同じ結果をもたらすものであるから,行政における公平の原則及び比例原則からするならば,かかる処理を行うためには,当該不法就労が法24条4号イの定める活動と実質的に同視し得る程度に違法性の高いものであることが求められるべきであり,このような程度に達せず,法73条が想定する程度の違法性にとどまる不法就労や,さらに,法73条が予定するほどの可罰的違法性すら認められない不法就労について,これを理由に退去強制処分を想定した在留資格変更不許可処分を行うことは,法24条4号イを潜脱するもので,裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものというべきである。
しかるに,原告の不法就労は,前記のとおり,違法性の程度が極めて低く,法73条の適用に関しても可罰的違法性の存在が疑問視されるほどのものであって,到底,法24条4号イで定める退去強制事由に匹敵するものとはいえないから,本件不許可処分が,被告入管局長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法な処分であることは疑いをいれない。
(イ)旅券の不正使用への関与の疑いを考慮することはできないこと
被告らは,原告が平成12年3月21日に再入国許可申請をしてその許可を受け,同年4月29日に出国した記録があるが,原告は,この再入国許可を申請しておらず,同年8月15日にした旅券の遺失届において,遺失の時期を同年7月10日ないし15日としていることを根拠に,上記再入国許可申請及び出国時には,原告が上記旅券を所持していたはずであるから,原告が旅券を第三者に不正使用させた疑いが濃厚である旨主張する。
しかしながら,原告は,同年7月中旬ころ友人の自転車のかごに入れていたバッグを盗まれたこと,同年8月に入って外国人登録証を作ろうとした際に旅券が見当たらなかったことから,盗まれたバッグの中に旅券が入っていたと考え,遺失届をしたものであるが,盗難当時上記バッグの中に旅券を入れていたのか厳密には記憶していないのであり,上記バッグとともに旅券が盗まれのかどうかは必ずしも確実ではなく,それ以前に旅券を紛失(遺失若しくは盗失)していた可能性も否定できないところである。また,仮に,原告がその旅券を他人に不正使用させたとすれば,旅券の不正使用に関与したことを否定するために同年3月21日以前に紛失したと届け出るのが自然であるところ,同日から5か月近くも経った同年8月中旬になって遺失を届け出,しかも遺失の日時を同年7月10日ないし15日ころと述べていることも,原告が旅券の不正使用に関与していないことを推認させるものといえる。
したがって,原告がその旅券を第三者に不正使用させたとする被告らの主張は,原告の旅券が不正使用されるに至った経緯として想定し得る類型の一つではあっても,その「疑いが濃厚である」といえるものではなく,被告入管局長が事実認定について裁量権を有するものではないから,本件不許可処分において,上記のような事実関係のあいまいな事柄を原告に不利益に考慮することは許されないというべきである。
(ウ)Aとの前婚は,偽装結婚ではないこと
Aは,知人を介して**ことF(以下「F」という。)なる人物と知り合い,同人から原告を紹介され,2回ほど原告に会いに中国に行って,原告のことを気に入り,2回目の訪問の際に結婚の手続を行った後,原告を日本に呼び寄せ,当時居住していた東京都町田市○○の自宅で同居生活を開始したものであり,原告とAは,真摯な婚姻意思に基づき婚姻し,日本において同居生活を送っていたものである。
なお,Aは,原告との結婚に先立ちAの両親に報告をしたところ,外国人との結婚に反対した父親と喧嘩となり,両親とは絶縁状態となったが,Aが同じ敷地内の自宅で中国人の女性と一緒に暮らしていたことは,Aの実母であるLも記憶しているところである。
Fの手帳に原告の電話番号が記載されていた理由については不明であるが,上記の通りFとAが交際があり,Fが紹介した女性であるから,その連絡先を記録していたという可能性もあるのであり,同人の手帳に氏名や電話番号が掲載されているからといって,それがすべて同人が偽装結婚を斡旋したケースであると断定することはできない。
(エ)ビザ認定証明書交付申請における虚偽申告等の疑いを考慮することはできないこと
被告らは,原告が今回入国する以前の平成10年12月24日に,E外語学院に入学することを理由として,第1回ビザ認定証明書交付申請をしたことがあり,その際,申請書に虚偽の記載をし,偽変造した書類を資料として提出したものである旨主張するが,これらの点は,原告の上陸許可の際にも在留期間更新許可の際にも全く問題とされておらず,本件不許可処分の理由として考慮されていなかったことは明らかであるから,これを本件不許可処分の根拠として主張することは,許されないものである。
また,申請書の偽造や虚偽記載の事実自体不明である上,原告は,専門学校卒業後に,父親から日本への留学を勧められ,乗り気ではなかったが,積極的に異を唱えることはなく,父親から求められるままに,留学のための提出書類として渡された書類に記入をしたもので,身分事項以外は,すでに記載された原稿を引き写したにすぎず,留学先やビザ取得の見込み等の詳細も知らず,認定証明申請書の添付書類を見たこともなく,その記載に偽造や虚偽が含まれているかどうかも知らなかったものである。
したがって,原告が,ビザ認定証明書交付申請において虚偽申告をし,偽変造書類を提出したと断定することはできず,かかる不確実な事実をもって原告に対する本件不許可処分の根拠とすることは許されないものというべきである。
(オ)他人名義の携帯電話の使用や自己名義預金口座の貸与等は,著しく反社会性が高いとはいえないこと
原告が他人名義の携帯電話を借り受けてこれを使用していたことや,自己名義で携帯電話を契約してAに使用させていたこと,自己名義で開設した銀行口座を他人に使用させていたこと等は,原告も認めるところであるが,これらは,日本人同士でも往々にして行われることであり,原告自身も特に犯罪行為を行っているとか犯罪に加担しているとの認識はなく,知人の好意に甘えたり,知人から頼まれて助けてやったにすぎないのであり,原告の行為自身が著しく反社会性が高いということはできない。

(被告らの主張)
ア ビザの変更に係る法務大臣の裁量権
(ア)国家は,外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく,特別の条約ないし取り決めがない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができるのであり,我が国の憲法上においても,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない。
法は,かかる原則を踏まえ,我が国に入国及び在留する外国人について,その入国及び在留の目的たる活動が法の定めるところに合致する場合に限り,その外国人の入国及び在留を認め得ることとするとともに,我が国に在留する外国人のビザの変更に関しても,法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとし(法20条1項,3項),ビザの変更の許否を法務大臣の裁量にかからしめているのであり,この理は,法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長にも妥当する(以下,法務大臣と併せて「法務大臣等」という。)。
(イ)そして,法20条3項にいう「ビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由」が具備されているかどうかは,外国人に対する出入国及び在留の公正な管理を行う目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定など国益の保持の見地に立って,当該申請者の申請理由の当否のみならず,当該外国人の在留中の一切の行状,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情を総合的に勘案して的確に判断されるべきであり,このような多面的専門的知識を要し,かつ,政治的配慮も必要とする判断は,事柄の性質上,国内及び国外の情勢について通暁し,常に出入国管理の衝に当たる法務大臣等の広範な裁量にゆだねられているものと解される。
(ウ)以上のような法20条3項所定のビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかの判断に係る法務大臣等の裁量の性質にかんがみると,ビザの変更の許否の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はその裁量権を濫用した場合に限られるというべきである。
(エ)さらに,法は,短期滞在のビザをもって在留する者の申請については,やむを得ない特別の事情に基づくものでなければ許可しないものと規定している(法20条3項ただし書)。
これは,短期滞在のビザの決定を受けて上陸しようとする外国人は,その入国目的が観光等,就労を目的としないものであり,かつ,滞在期間もごく短期間に限られていることから,査証が比較的簡易に発給され,又は査証を要求されることなく,簡便な入国審査により上陸が認められるため,このような短期滞在のビザを持って在留する外国人に対して軽々にビザの変更を認めることとすると,査証制度及びビザ認定証明書制度の形骸化を招くおそれがあるほか,当初から長期滞在が予定される外国人に対しては,入国に先立って厳格な事前審査を行っている出入国管理制度の根幹を揺るがすおそれがあり,適当でないことによる。
したがって,上記「やむを得ない特別の事情」とは,入国後の事情変更により当初の在留目的を変更したことに合理的理由があり,かつ,いったん本邦から出国して新たな入国手続をとらせるまでもなく引き続き本邦在留を認めるのが相当であると認められるような事情をいうものと解すべきである。 

(解説)被告入国管理局長の主張であり、実務上参考となる部分である。
「やむを得ない特別の事情」とは,
(1)入国後の事情変更により当初の在留目的を変更したことに合理的理由があり,
かつ,
(2)
いったん本邦から出国して新たな入国手続をとらせるまでもなく引き続き本邦在留を認めるのが相当であると認められるような事情をいうものと解すべきである。短期滞在からの各種資格変更申請において、以上の2要件を充足するものと判断される必要ある必要があることになる。

 

なお,原告は,「やむを得ない特別の事情」の立証が要求されることは実務上皆無であるとして,被告らの主張はかかる実務にも反すると主張するが,原告がいう実務上の取扱いについて裏付ける証拠は何ら提出されておらず,原告の主張は根拠がないものである。

イ 本件不許可処分に裁量権の逸脱又は濫用は存在しないこと
外国人が在留資格変更許可を受けるためには,①当該申請に係るビザにつきビザ該当性があること,②ビザの変更を適当と認めるに足りる相当の理由があること,及び③短期滞在のビザをもって在留する者の申請については,やむを得ない特別の事情に基づくものであることの3要件をいずれも具備することが必要であるところ,原告については,以下に述べるとおり,原告の本邦における入国在留状況は甚だ悪質不良であるというべきであり,ビザの変更を適当と認めるに足りる相当な理由や,やむを得ない特別な事情があると認めることはできないから,被告入管局長が本件不許可処分をしたことに何ら裁量権の逸脱・濫用など認められない。
(ア)原告が不法就労(無許可の資格外活動)をしていたこと
a 原告は,ビザ「短期滞在」で本邦に在留する者でありながら,法19条1項2号の規定に違反して,風俗営業が行われている事業所(パブスナック「××」)において,ホステスとして,報酬を受ける活動である客の接待を行い,客に遊興又は飲食をさせる活動をするなどし,その違法性を十分認識した上で,資格外活動につき許可を受けることなく,不法に就労していたものである。
b 原告は,①「短期滞在」のビザで働いてはいけないことを認識しておらず,上記資格外活動は,Dとの結婚式等の費用を稼ぐため,知り合いからパブスナック「××」を手伝うことを頼まれたことから,たまたま就労を開始したにすぎず,その就労期間や頻度,得た利益等からみて違反の程度は軽微であること,②日本人配偶者等のビザが認められる実質的基盤を有するから,その資格外活動を理由に本件不許可処分を行う必要はないこと,③このような原告について,違法性の軽微な不法就労を理由に行われた本件不許可処分は,法24条4号イの趣旨を潜脱するものであること等を理由に,本件不許可処分は被告入管局長の裁量権を逸脱・濫用したものである旨主張する。
c しかし,原告がスナックで稼働することについて,違法性を認識していなかったというのであれば,在留資格変更許可申請をした際の申請書にも事実をありのまま記載するはずであるが,実際には職業欄に「無職」と書くなど,極めて不自然である上,資格外活動に対する罰則を定めた法70条1項4号,73条は,いずれもその成立について故意又は過失を要件とはしていないから,仮に原告に法の不知という事実があったとしても,原告の責任が軽微であるなどとは到底いえない。原告の不法就労の目的,経緯等が,原告主張のようなものであったとしても,不法就労が法19条1項2号の規定に違反することに変わりはない上,かかる就労の目的,経緯等によって直ちにその違法性が減殺されるものとはいえない。パブスナック「××」における原告の毎月の収入額についてみても,原告の主張によれば2万円から3万円程度であったというのであり,結婚式等の費用を稼ぐためには,相当期間不法就労を継続しなければならないと考えられ,本件摘発を受けなければ,原告は相当期間継続して不法就労活動を行っていたであろうことは容易に想像されることから,本件摘発時点における就労回数等が少ないことをもって直ちに原告の不法就労の違法性が軽微であったということもできない。
また,日本人の配偶者等に該当することから直ちに在留資格変更が許可されるものではない上,法は,原告のようなビザ「短期滞在」を受け,日本人と婚姻したことを理由として在留資格変更許可申請をする者に対し,在留資格変更許可を受けるまでの間,資格外活動を認容するなどの特別の定めを置いておらず,無許可の資格外活動に対し厳しい態度で臨んでいることに照らせば,原告の不法就労の違法性が軽微であるとはいえず,退去事由に該当しない無許可の資格外活動も刑罰の対象とされていることからすれば,当該資格外活動の事実が法務大臣等の在留資格変更許否の判断において消極的事情として斟酌されることは当然である。
そもそも,原告は,本件不許可処分がされたことによって不法残留となったのであり,本件不許可処分は,原告の無許可の資格外活動を含む在留不良状況に由来するものであるから,結局,原告が不法残留となったのは,原告自身の帰責性に基づくものにほかならず,本件不許可処分は何ら法24条4号イの趣旨を潜脱するものでもない。
なお,不法就労活動が問題とされる事案においては,短期滞在資格で入国在留する者が不法に就労する事例が最も多く,この点に関し,警察庁,労働省(現厚生労働省)及び法務省は,不法就労対策として,不法就労外国人対策キャンペーンを行い,違反行為の防止及び早期発見のため厳格な在留審査を行っているところであり,同キャンペーンでは,「ビザをもって在留する外国人が資格外活動の許可を得ることなく行う収入を伴う就労活動」等を「不法就労活動」であると定義した上で,「不法就労をする外国人の存在は,労働面だけでなく,風俗,治安などいろいろな分野にわたって,様々な問題を引き起こしつつあ」ることから,「厳格な審査」等を行う旨広報が行われているところであって,原告の上記資格外活動も,不法就労対策キャンペーンの対象として厳正に対処されるべき不法就労活動に該当することは明らかである。
(イ)原告が旅券を第三者に使用させ,不正出国を幇助したことは明らかであること
原告は,本邦入国後の平成12年3月21日に,再入国許可申請をしてその許可を受け,同年4月29日に上海向け出国した記録があるところ,原告自身は,上記再入国許可申請及び出国をしたことはないというのであるから,上記再入国許可申請及び出国は,第三者が原告の旅券を不正に使用したものである。再入国許可申請には旅券の添付を要し,上記再入国許可申請時及び上海向け出国があった時期には原告は旅券を所持していたはずであり,これを第三者が不正使用して再入国許可申請をし上海向け不法出国するには,原告から旅券の交付を受けるほか方法がないから,原告が,第三者に対し,原告名義の旅券を交付して不正使用させた疑いは濃厚であるといわざるを得ない。
原告は,旅券の不正使用が行われた平成12年3月21日以前に原告が旅券を紛失した可能性も考えられ,原告の旅券不正使用への関与は,疑いにとどまり,かかる事実関係のあいまいな事柄を原告に不利益に考慮して本件不許可処分を行うことは許されない旨主張する。
しかしながら,原告名義の上記再入国許可申請書には,旅券を入手したのみでは到底知ることはできない,原告の当時の「居住地」,「外国人登録証明書の番号」などの記載があり,同申請書に記載された携帯電話番号(090-****-***1)の契約者住所(中野区〈省略〉△△ハイム202号)が,原告が別に借り受けていた携帯電話(090-****-***2)の契約者住所とアパートの室番号まで一致していることからしても,原告自身が申請に関与したことが強く推認される。
原告は,同年7月中旬ころ町田駅周辺で友人の自転車のかごに入れていたバッグを盗まれ,同年8月に入って外国人登録証を作ろうとした際に旅券が見当たらなかったことから,盗まれたバッグの中に旅券が入っていたと考え,遺失届をしたが,真に上記バッグとともに旅券が盗まれたのかどうかは必ずしも定かではなく,それ以前に旅券を紛失していた可能性も否定できない旨主張する。
しかしながら,原告は,同年1月24日,町田市長に対し,外国人登録法3項1項に基づく新規登録申請をし,同年2月15日,同証明書の交付を受け,次回確認日を平成17年1月23日と指定されていたのであり,外国人登録法6条の2に定められた引替交付申請の必要性もなかったのであるから,上記盗難にあったという当時,外国人登録証明書を作成する必要性があったとは認められない。原告は,盗まれたとするバッグや現金については盗難等の届出をせず,旅券と外国人登録証明書についても,盗難ではなく,遺失の届出をしており,これらの届出について,自ら或いはAを介して,可能な限り速やかに手続をしていないことや,上記遺失届に,連絡先電話番号として自宅の電話番号や,Aあるいは原告の携帯電話番号ではなく,Aの友人で,偽装婚姻ブローカーのFと親交のあるGの携帯電話番号(070-****-****)を記載していることも,不自然,不合理である。
これらのことからみて,原告が,東京入管に赴き,再入国の申請をしたことは明らかであり,仮に,第三者が申請したとしても,原告が,自己の旅券を第三者に不正使用させ,不法出国の幇助をしたことは明らかである。
(ウ)原告とAの婚姻は真摯な婚姻意思に基づくものとは認められないこと
原告とAの婚姻は,ブローカーであるFが,原告との金銭のやりとりに基づき関与した偽装結婚であり,婚姻の本質的要件である,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的とした真摯な意思をもって共同生活を営む意思に基づくものであったとは認め難い。
このことは,Fが所持していた手帳に,原告の氏名のみならず,生年月日,外国人登録証の番号,原告とAの合計4件の携帯電話の番号が記載されていたこと,Aが,原告の婚姻前の健康保険の加入状況を承知しておらず,Aの両親も,Aと同じ敷地内に居住していながら,原告と交流が全くないこと,原告が,Aとの婚姻後も,同郷人の男性から携帯電話を借りていたことなどからも,明らかである。
(エ)原告に係る2回のビザ認定証明書交付申請は,いずれも虚偽の記載や書類の提出等が行われており,背後には,偽装婚姻ブローカーの関与もあること
a 原告は,E外語学院に入学することを理由として,第1回ビザ認定証明書交付申請をしたものであるが,同申請に際して提出したE外語学院日本語学科入学願書には,原告の署名押印がなされており,また,ビザ認定証明書交付申請に際し提出のあった原告自身の経歴を書いた履歴書や,就学の理由と題して,日本で勉強することを決意した理由,今後の学習希望及び将来の予定等について詳細に書かれた書面の提出がされており,これらの内容に照らせば,原告が上記入学許可願いや上記ビザ認定証明書交付申請に全く関与していないなどとは到底いえない。
b 原告の家庭環境や生活状況等をみても,原告を海外の学校に2年間も留学させるほどの経済的基盤があったとは到底考えられないのであって,原告は,当初から本邦での稼働を目的とし,入国するための手段として就学生としての入国という手段を用いようとしたと考えるのが合理的である。
c 原告が平成11年9月3日に行った第2回ビザ認定証明書交付申請には,偽装婚姻ブローカーのFが関与しており,Aは,Fの関与について,手続自体の教示を受けたほか,「質問書」(乙47の2)及び「理由書」(乙47の3)については,Fに記載してもらったとしているが,婚姻の経緯等について,上記理由書の記載内容と,本訴において提出した陳述書の記載内容が異なっており,上記陳述書の記載内容が正しいとすれば,Aは,虚偽の記載をした書面を提出したことになる。
(オ)原告が不法残留の手助けのため自己名義の口座を使用させていたこと
原告は,原告名義の郵便貯金口座及びH銀行の普通預金口座について,本邦に不法残留していた中国人Iから依頼され,同人が不法就労で得た金員を預かるなどの趣旨で,同口座を使用させていたことや,K銀行(a支店)の普通預金口座についても,親戚に使用させていたことを自認しており,かかる行為は,不法残留者の不法就労やその他経済活動を幇助したものにほかならず,この点からみても,原告の在留状況は極めて悪質である。

(2)本件裁決及び本件退令発付処分の違法性の有無(争点2)

(原告の主張)
   ア 本件不許可処分が違法とされた場合
前記のとおり,本件不許可処分は違法な処分として取り消されるべきであるが,その場合,原告は,日本人の配偶者のビザへの変更許可申請中の立場となる一方,従前の「短期滞在」の在留期間を徒過していることとなる。
しかしながら,ビザ更新・変更許可申請中に従前の在留期間が満了することは往々にして生じることであり,必ずしも申請者側の事情に起因するものではなく,入国管理当局側が審査に時間を要したために期間満了となる場合も多々ある。このような場合に,入国管理の実務上,「在留期間が満了したから」といって申請に対して応答しないまま不法残留を理由に退去強制手続に付すような取扱いは一切行われていない。仮にかかる処理を行った場合,申請者としては自己に全く帰責性のない,入国管理当局側の手続の遅れによって退去強制処分に付されるという全く筋違いな取り扱いを受けることになるばかりでなく,従前の在留期間内に申請に対する許否の判断を行わなければならない入国管理当局側にとって事務負担量が著しく増大し,反対に,退去強制事由には該当しないが退去強制処分にしたい外国人の申請事務を恣意的に遅らせて不法残留としてしまうなど不適切な処理も生じかねない。何より,申請中に在留期間を徒過しても退去強制手続に付することのなかった従来の取り扱いが全て法に反した取扱いであったということになり,このような事態を法が予定しているとは解し得ないから,ビザ更新・変更許可申請中の者については,従前の在留期間満了後もなお,従前の資格に基づいて在留することを法が許容しているものと解さざるを得ないものである。
したがって,本件不許可処分が取り消されたならば,原告は「日本人の配偶者等」の在留資格変更許可申請中の立場になり,従前の「短期滞在」のビザに基づいて在留することを法が許容していることとなるから,本件退令発付処分もまた違法な処分として取り消されるべきである。
イ 本件不許可処分が適法とされた場合
仮に,本件不許可処分が適法であるとされた場合でも,原告に対し在留特別許可をせずにされた本件裁決は,以下のとおり,法50条1項3号の裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法な処分であり,本件裁決に基づく本件退令発付処分も,違法な処分というべきである。

(ア)裁決における裁量権の有無
法49条1項に基づく異議の申出は「不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出」して行うとされ,異議の事由については規則42条に4項目が列記されている。このうち「審査手続の法令違反」(1号),「法令の適用違反」(2号),「事実誤認」(3号)の3つについてはその判断について法務大臣等に裁量権が認められないことは,その性質上明らかである。「著しく不当な結果の招来」(4号)の判断についても,異議の申出に対する裁決について定めた法49条3項や異議申出の提出資料について定めた規則42条が上記1号ないし3号と4号とを区別していないこと,退去強制が著しく不当か否かは退去強制事由の種類や違反の程度,本人の日本国内における身分関係や生活関係,退去強制処分による不利益の内容や程度を考慮し,裁判所において判断することが可能であること等からみて,法務大臣等の裁量権は存在しないものとみるべきである。
原告とDが法律上婚姻し,かつ同居生活も営んでおり夫婦としての実態を有すること,原告の就労は週1回,3時間ないし3時間半程度にとどまり,収入金額も総額約8万円程度であるなど法24条4号イで定める退去強制事由としての不法就労に比べ著しく軽微な内容であること,しかもその使途は遊興費等ではなく結婚式の資金であったこと等にかんがみると,原告を退去強制処分に付することは著しく不当である。
したがって,本件においては,法50条1項3号の裁決に先立ち,法49条3項の適用において規則42条2号,4号の異議の申出に理由があるとの裁決をするべきであったのであり,それにもかかわらず,被告入管局長は,その判断を誤り,異議の申出に理由がないとの裁決を行ったものであるから,本件裁決は違法であったものである。
(イ)在留特別許可における裁量権に対する制約とその違反
仮に,原告に対し法49条3項の判断において異議の申出に理由ありとしなかった点が違法でないとしても,法50条1項の適用において原告に対して「異議の申出に理由なし」として在留特別許可を否定した被告入管局長の本件裁決は,以下の見地に照らし,違法である。
a 憲法上の制約
憲法24条2項は,「配偶者の選択,(略)住居の選定,(略)婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と規定する。夫婦関係及び家族関係は,社会における人間関係の自然かつ最も基本的な単位であり,人間が情愛に満ちた人間らしい生活を営むために必要欠くべからざるものである。憲法24条2項は,この婚姻及び家族の結合が人間にとって重要であることを深く理解し,国家はこれを最大限尊重し配慮すべきことを規定したものであり,婚姻,家族形成及び同居の自由が,人間の幸福追求の根本にも関わる重要な権利であることを考慮するならば,これらの自由の保障の結果,より重大な権利侵害や法益の侵害が発生する場合に限って,その制約が憲法24条2項に適合するものというべきであって,法務大臣等の在留特別許可に関する裁量権も,上記規定による制約を受けるというべきである。
b 「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(B規約)による制約
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「B規約」という。)17条は個人の私生活,家族の自由を保障し,同23条は,家族形成の権利を保障しており,これらの規定は,特段の立法措置を要せず,日本国内において直接適用が認められるもので,憲法98条2項により法の上位に位置付けられるものであるから,法務大臣等の在留特別許可に関する裁量権も,上記規定による制約を受けるというべきである。
c 公平・平等原則等に基づく制約
入国管理実務の取扱い上,法律上の婚姻が成立し,かつその婚姻が真に婚姻意思に基づくものである場合には,在留特別許可により「日本人の配偶者等」のビザを付与するとの処理が定着しており,このような取扱いは,当該外国人と日本人との婚姻が真実のものであることを前提に,①人道的見地,②当該外国人について,今後は単に就労を目的とするのではなく,日本社会の一員として定着しその責任と義務を果たすことが期待できること,③当該外国人の我が国への在留を認めても我が国の国益を害するおそれがないことによるもので,人道的見地及び行政の一貫性,公平・平等原則の要請から,維持されなければならないものである。
d 上記制約からみた本件裁決及び本件退令発付処分の違法性
原告とDの婚姻は,法律上成立し,かつ両者の真摯な合意によりなされたものであり,両名は既に(平成14年7月以降)同居生活を営み,家計を共にし,家事と労働を分担して家庭を維持しているのであって,このような関係が,憲法24条2項及びB規約17条,23条に基づく婚姻・家族形成・同居の自由の保障の対象となることは明らかである。
他方,原告が犯した法律違反は資格外活動であるが,その態様・程度は極めて軽微であり,Dと婚姻後,「日本人の配偶者等」のビザを得るための手続中であったこと,就労の動機が結婚式の資金を準備するためであったことなどを考えれば,積極的な法違反の意図があったとか,ビザ制度を悪用したというものではなく,本件におけるような原告の不注意若しくは軽率さによる就労行為によって,ビザ制度の根幹が揺らぐとは到底いい難く,重大な公益の侵害は存在しない。
したがって,本件裁決は,憲法24条2項及びB規約17条,23条により保障された原告及びDの権利を違法に侵害するもので,被告入管局長の裁量権の逸脱又は濫用に当たり,違法というべきである。

(被告の主張)
   ア 在留特別許可に関する法務大臣の裁量権
在留特別許可は,法律上退去強制事由が認められ退去されるべき外国人に恩恵的に与え得るものにすぎないもので,申請権も認められていないことにかんがみれば,法務大臣等の在留特別許可の可否に関する裁量の範囲は,在留資格変更の許否に関する裁量の範囲よりも質的に格段に広範なものであることは明らかである。
したがって,法務大臣等が,在留特別許可の付与をするに当たっては,外国人に対する出入国の管理及び在留の規制目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働事情の安定など国益の保持の見地に立って,当該外国人の在留中の一切の行状等の個人的な事情のみならず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情が総合的に考慮されなければならないのであり,法が在留特別許可の付与を法務大臣等の裁量にゆだねることとした趣旨が,在留特別許可の許否を的確に判断するについて,多面的専門的知識を要し,かつ,政治的配慮をしなければならないとするところにあるとすると,同許可に係る裁量の範囲は極めて広範なものというべきである。
このように,在留特別許可は,在留期間更新許可における法務大臣等の裁量の範囲よりも質的に格段に広範なものであるから,違法となる事態は容易には考え難く,極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても,それは,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するなど極めて特別な事情が認められる場合に限られるものである。
イ 本件裁決の適法性
(ア)原告は,在留期限である平成15年4月20日を超えて本邦に不法に残留する者であり,法24条4号ロ所定の退去強制事由に該当するから,法務大臣に対する異議の申出に理由がないことは明らかであるところ,本件原告について,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するような特別の事情は認められない。
(イ)原告は,本件裁決の違法事由について,原告とDが婚姻関係にあることを挙げる。
しかしながら,憲法上,外国人は,本邦に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもなく,この理は,当該外国人が日本人の配偶者を有する場合であっても同様である。しかも,原告とDとの婚姻届出がされた日(平成15年3月18日)は,原告が収容されるわずか3か月ほど前にすぎないから,仮にDとの婚姻関係があったにせよ,このような婚姻が,本件裁決においてさほど重要視されるべき事情であるとはいえない。
また,原告とDの関係をみても,平成14年7月25日から同居していたと称するも,Dは,原告の資産状況や,不自然,不合理な原告名義の口座取引状況,携帯電話の契約状況等について十分に承知していないなど,本件裁決において特に保護されなければならないほどの関係にあったとは認められない。
(ウ)一方,原告は,本国である中国で生育し,教育を受け,生活を営んできたものであって,本邦に入国するまで,我が国とは何らかかわりのなかった者であり,稼動能力を有する成人であるところ,中国に帰国したとしても,本国での生活に特段の支障があるとは認められない。
(エ)原告は,入国管理実務における取扱いにおいて在留特別許可の付与については一定の判断基準に則った判断が行われており,夫婦や親子といった家族的結合に対する人道的配慮をした取扱いが定着してきているとした上で,本件裁決は,原告の行った資格外活動による法違反の程度が極めて軽微であるのに対し,原告ら夫婦の同居の権利を侵害し,その婚姻生活を引き裂くおそれのあるものとして苛酷に過ぎ,処分の均衡を失するものとして,違法であると主張する。
しかしながら,在留特別許可に関する判断は法務大臣等の広範な裁量権にゆだねられているところ,法上,その判断に関して,日本人の配偶者を有する外国人を特別に扱うべきことを定めた規定は存しないから,当該外国人に日本人の配偶者がいることをもって法務大臣等の在留特別許可の許否に関する裁量権が制約されるとする法的根拠は存しない。また,原告が主張するような実務の運用があったとしても,かかる運用によって法務大臣等の上記裁量権が法的に覊束されるとする根拠もない。
そして,上記のとおり,原告については,不正出国の幇助,資格外活動,外国人登録法違反,不法就労者への口座の提供,及び,携帯電話契約の不履行を含めその入国及び在留の状況が著しく不良であるところ,原告について本邦に在留を認めなければ在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反すると認められるような特別な事情は存しない。
(オ)なお,原告は,本件不許可処分が取り消された場合について,「原告の本件在留資格変更許可申請は未だ申請中の状態となり,その間は,たとえ従前の「短期滞在」による在留期間が経過していても不法残留とは扱われないのであるから,原告は法24条4号ロ(不法残留)に該当せず,退去強制事由は存在しないこととなるため,本件裁決及び本件退令発付処分はいずれも違法であると主張する。
しかし,在留資格変更許可申請中であれば,在留期間を経過していても退去強制事由に該当しないとする法的根拠はなく,仮に,裁判所によって,本件不許可処分が違法であるとしてこれが取り消された場合でも,原告は,本邦に在留する権利を取得するものではなく,ただ本件不許可処分がなかったのと同じ状態が作出されるにすぎないのであって,新たに在留資格変更許可処分がなされない限り,原告が不法残留に該当することに変わりはなく,本件不許可処分の取消しによって,それぞれ要件を異にする別個独立の処分である本件裁決及び本件退令発付処分が,さかのぼって当然に違法となることはないから,原告の主張は失当である。
ちなみに,実務上,ビザの変更を申請したが,その許否の判断がなされるまでの間に在留期間を経過した者について,法がビザの変更という制度を設けている趣旨に照らし,退去強制手続を執ることを差し控える場合があるが,これは,この間の在留を合法的なものとして取り扱っているものではない。
(カ)したがって,原告に対して在留特別許可を付与しなかった被告入管局長の判断は適法であり,本件裁決には何らの違法もない。
ウ 本件退令発付処分の適法性
退去強制手続において,法務大臣等から「異議の申出は理由がない」との裁決をした旨の通知を受けた場合,主任審査官は,速やかに退去強制令書を発付しなければならないところ(法49条5項),退去強制令書を発付するにつき全く裁量の余地はないのであるから,本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も当然に適法であるというべきである。