
親子DNA鑑定に関するメモ
嫡出推定を受ける離婚後300日以内に出生した子の父子関係の確定においては,解釈上いわゆる「推定の及ばない子(嫡出子)」という概念が認められています。
「推定の及ばない子(嫡出子)」については,裁判実務では,最高裁判例の外観説が堅持されつつも,合意に相当する審判(家審法23条)によって,
当事者間の合意を中心とした運用がなされ,他方で,DNA鑑定 による親子鑑定が安価で容易になってきたこともあり,厳格な嫡出推定=嫡出否認制度の空洞化が指摘されるようになっているところです。
離婚後300日以内に出生した子について,「推定の及ばない子(嫡出子)」に該当するか否かが裁判所で審理される場合において,DNA鑑定 による親子鑑定
をどのように位置づけるのかには議論があるところです。
また、産まれた子について血縁上の父に対する認知請求手続が取られた場合における前夫手続関与の問題があります。
離婚後300日以内,かつ,後婚の婚姻後200日以内に出生した子から血縁上の父に対する認知請求手続等の問題点もあります。
さらには、非嫡出子父子関係において,近時の最高裁判例が血縁主義に謙抑的になっていると評されていることについての議論もあります。
上記のような問題点について、下記にメモとして残していきたいと思います。執筆途中の原稿です。なお、参考文献等の記載はメモのため省略しています。
日本の民法は,実子について婚姻関係にある父母から生まれた子(「嫡出子」といいます)と、婚姻関係にない父母から生まれた「嫡出子」でない子(非嫡出子といいます)を区別しています。
嫡出父子関係つまり、婚姻関係にある父母からうまれた場合の、父と子の関係については,一般に,民法772条の嫡出推定規定によって成立すると理解されています。
しかし、民法は,直接に嫡出推定の規定を定めているわけではありません。民法772条により、2段階の構造によって嫡出を推定する規定をおいているだけです。
(嫡出の推定)
第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(嫡出の否認)
第774条 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
民法の条文上は,①民法772 条2 項により,婚姻成立の日から200日後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎(妊娠)したと推定され,その上で,②民法772条1項により,婚姻中に懐胎した子は,夫の子であると推定される(父性の法律上の推定)と定められており,こうした2段階の推定によって、産まれた子が嫡出子として推定されるという構造を取っているのです。
こうした規定を民法がおいているのは、夫婦は同居して共同生活を営み、排他的、継続的な性関係があるため、夫と子との間に父子関係があることには高度の蓋然性がある、このように考えることが社会常識にかなうことを理由としています。
民法は,こうした嫡出推定規定が適用されることを前提に,産まれた子を嫡出子として扱います。しかし,判例や学説上では,婚姻中の懐胎推定規定(上記①)が適用されないが,嫡出子と扱われる場合(いわゆる「推定されない嫡出子」=婚姻後200日以内に産まれた子(戸籍実務では、夫の子とするかどうかは妻の意思に委ねられている))が認められており,また他方で,婚姻中の懐胎推定規定が形式的には適用されるものの嫡出推定規定(特に上記②の父性推定規定)が排除される子(いわゆる 「推定の及ばない子(嫡出子)」)が認められていて,嫡出推定規定の適用の有無によって,一律に産まれた子を嫡出子か非嫡出子であるかを定めているわけではありません。
裁判実務においては,産まれた子が夫の嫡出子かどうかとして扱われるかどうかという問題よりも,嫡出推定がなされる期間に出生した夫との血縁関係にない子の父子関係の確定手続が問題となり,これについては,当該手続の受理や審理のあり方等を巡って実務上さまざまな問題が生じているといわれています。
⑴ たとえば、夫婦が別居中に,妻が夫以外の男性と性的関係をもち,子が離婚後300日以内に出生した場合,産まれた子については,妻が婚姻中に懐胎した子と推定されることになります。
そのため妻は,前夫の子として出生の届出をしなければならないことになります。前夫以外を父とする出生届は,受理されません。戸籍上の父の欄に、前夫が入ることを避けようとすると、出生届を出すことが出来ないことになり、その子は,無戸籍となる問題が生じます。
嫡出推定にもかかわらず、上記の問題を解決する為には、嫡出否認の訴えを前夫が提起するか、夫の子でありえない、つまり嫡出推定が及ばないことを理由に、妻が前夫と子との間の親子関係不存在確認の訴えを起こした上で,血縁上の父が認知して,出生届出ないし戸籍を訂正するという手続が認められることになります。
また、嫡出推定が及ばないとするならば、子が直接,血縁上の父に対し,認知の訴えを起こすという手続もありうります。
では、この「推定の及ばない子(嫡出子)」とはどのような場合なのか、その範囲が問題となります。
なお、平成19年5月の通達により,離婚後300日以内に産まれた子でも,医師の作成した証明書の提出により,離婚後に懐胎したことが証明できる場合には,民法772条1項の推定が及ばず,前夫を父としない出生届を受理することができるようになりました。しかし,これによっても離婚前,別居中に懐胎したような事案には適用されません。
学説上は,実質的に嫡出推定を排除できる場合として,妻が夫の子を懐胎しえないことが外観上明白な場合(たとえば、懐胎期に夫が海外にいたり、監獄にいたような場合)に限られるとする外観説,外観説の場合に加え人種や血液型等の違いも含める実質説,折衷説(家庭破壊説,新家庭形成説),合意説などの対立があります。
最高裁判所の裁判については、昭和44年5月29日判決や、平成10年8月31日判決、平成12年3月14日判決において,外観説を明確に採用していると評されています。
しかしながら,近時の下級裁判例では,「子ないし妻(子の法定代理人)から夫に対する親子関係不存在の確認の訴えの事例において,子側から親子関係の不存在を主張する事案を中心に,いわゆる「外観説」によっては,嫡出推定が排除されない事案においても,親子関係不存在確認が(合意に相当する審判,すなわち23条審判によって)なされていると評価されています。
家庭裁判所の実務においては,前述した最高裁判所の裁判例の外観説の射程を超えて,嫡出推定規定が排除されたことを前提に,親子関係不存在確認が23条審判によりなされる事態(いわゆる嫡出推定=嫡出否認の空洞化)が多く認められることは否定できないと思われます。
その背景には,親子関係不存在確認の訴えについては,調停前置主義が取られ,合意に相当する審判によって,事件を解決することが先行するので,前夫の子でないことが当事者間に争いのない場合の大部分は,訴え提起の方法を取るまでもなく,右審判によって処理されているのが実情であることや,他方で,DNA鑑定により、生物学的な親子鑑定が安価でかつ容易になってきた状況にあり,前夫の子でないことを科学的に立証することが容易になったことなどが考えられます。
ちなみに,23条審判のなされる調停事件の流れを述べておくと、まず調停委員会による調停が開始され,特に問題がないとされる事例では,1回または2回の期日で当事者間に当該親子関係の存否等について合意が成立します。裁判官は,まず,当事者間等を審問してその合意の真実性について検討し,鑑定等の証拠調べが必要ないと認められれば,調停委員会の意見を聴いた上,直ちに審判を告知し,2 週間以内に審判書を送達する。2 ,3 ヶ月で全手続が終了します。
DNA鑑定による親子鑑定の採否についての問題
民法772条の嫡出推定が及ぶ場合には,出生子について実質的に推定が排除されて初めて親子関係不存在確認の訴えが可能となる。
すなわち,嫡出推定が排除されることが親子関係不存在確認の訴訟要件となるので(訴えの利益),推定が排除される事案かどうかをまず審理し,それが肯定されて初めて親子関係存否の実体審理に入ることができ,それが否定されれば実体審理に入ることができず,訴訟要件を欠くものとして訴えを却下することになります。
最高裁判決が採用するとされる外観説によれば,妻が夫の子を懐胎しえないことが外観上明白であることが訴訟要件となり,訴訟要件が認められた場合に,真実の父子関係の有無について実質的判断をすべきこととなります。
したがって,上記訴訟要件の審査をせずに,親子関係存否の実体審理を判断するために,DNA鑑定による親子鑑定をすることは,理論上の問題があるといえます。
しかし,実際には,当事者から懐胎時期や別居時期について明確な供述が得られないなどの理由のため、DNA鑑定による親子鑑定により、嫡出推定排除をするための具体的事実を認定することが多くあります。高裁レベルの判決では、供述証拠によって父子関係を否定できるだけでは足りず,何人も疑いを差し挟まないような信頼に足りる科学的証拠によって立証される必要があるとするものがあります(東京高判平6. 3. 28、東京高判平7. 1. 30)。
また、実務上は、親子関係不存在確認の23条審判において,懐胎時,戸籍上の夫と妻との間に事実上の離婚が生じているとは認めにくいケースについてDNA鑑定を実施のうえ,審判がなされることがあります。これはDNA鑑定により事実上の離婚が生じていたか否かを調べる趣旨ではなく,合意説に立ち,当事者の合意があることを踏まえ,親子関係不存在確認の審理をするうえで,民法772条1項の夫の子であるとの推定を破る証拠の有無を調べる趣旨で上記鑑定が実際されているものと考えられます。
なお、裁判所におけるDNA鑑定による親子鑑定については,家事審判規則7 条3項6項の規定に基づき、民事訴訟の証拠調べの方法と同じです。多くは、民事訴訟法218条により民間企業(法人)等に鑑定嘱託をします。実際には,後者の方が圧倒的に多いといわれています。
親子関係不存在確認の裁判(父子関係の存否が問題となる点では嫡出否認事件も同じである。)においては,嫡出子(ないし当該夫の子)という実体法上の法的地位の消滅を生じさせる形成の裁判である以上,その形成力は,第三者に及ぶ(人事訴訟法24 条1 項)。
そうすると,対世的効力のある親子関係の存否について,重要な決め手となる懐胎時期の認定のような事柄は,出来る限り,世人を納得させるに足りる客観的な事実・証拠に基づき認定することが望ましいとされている。
ただし,そうだからといって,常にDNA鑑定鑑定等の科学証拠を要することにはならない。
最二小判平10. 8. 31判タ986号176頁の事案を例にとって具体的な説示方法について検討する。原審の説示は,推定の排除について,母の証言に基づき「夫が復員した当時,自分は妊娠5か月くらいであった。」「子は,出生時,未熟児ではなかった」との事実を認定し,その結果,子が出生時に未熟児ではなかったとの供述証拠によって認定した事実を一つの有力な根拠として子が推定を受けない嫡出子に当たると説示した。これに対し,最高裁は,「夫は,昭和21 年5 月28日の前日までの間応召し,母と性交渉持ち得ず」との事実を認定したほか「昭和21年当時における我が国の医療 水準を考慮すると,当時,妊娠週数26週目に出生した子が生存する可能性は極めて低かった」との経験則から,母が子を懐胎したのは,昭和21年5 月28 日よりも前であるとして,夫が母と性交渉をすることはありえないと判断し,子が推定の及ばない嫡出子に当たると説示している。
推定の及ばない子(嫡出子)は,嫡出推定規定の適用がない以上,誰からでもいつでも親子関係不存在確認を主張できるだけでなく,また,非嫡出子であることを前提として,血縁上の父に対し,直接認知請求を起こすことも可能です(前掲最一小判昭44. 5. 29)。
認知請求については,前夫が当事者となりません。そうすると,何らかの事情で,事実上の離婚状態にあったことについての証明や,父子関係の鑑定の協力が得られないなど,前夫の協力を得ることができないケースや、自らの不貞行為を責められることを怖れて前夫の協力を得たくないなどの場合は,当事者(母や子)は,血縁上の父に対し,認知を求める手続を選択することになります。
しかしながら,認知請求手続においても,嫡出推定の排除されることが認知の前提となるため、推定が排除される事案かどうかをまず審理し,それが肯定されて初めて実体審理に入ることができることには変わりがありません(最判昭和44年5月29日)。
最高裁が採用する外観説に立つ限り,嫡出推定が排除されるための事実(すなわち,妻が夫の子を懐胎しえないことが外観上明白であること)を認定するためには,何らかの形で前夫を手続に参加させることが不可欠となってしまいます(これを省いてDNA鑑定による親子鑑定をいきなり採用して結論を出すことは最高裁の立場からは難しいといえます。)。
そうすると,外観説に立つ限り、認知請求手続においても,前夫が手続に関与することは変わりがないため,親子関係不存在確認の訴えと違いはないことになってしまいます。
もっとも、認知請求事件となると,非嫡子親子関係を前提にして,血縁上の父との血縁関係を中心に審理するため,血縁上の父との間で父子関係の成立を認定するために,DNA鑑定を積極的に採用することが考えられます。そうだとすると、DNA鑑定の結果により、血縁上の父がそうだとして認められた場合、前夫を手続関与による事実認定の必要性は後退せざるをえないものと考えられます。
もちろん,懐胎時に出征中,服役中,隔離病棟における長期入院中であることが明らかなとき,さらには,渡航中であるときなど,前夫の供述を得なくても,妻が夫の子を懐胎することが外観上明白であることの心証が取れる場合は、前夫の参加は不要と考えられます。ただし、当該子が前夫の嫡出子として届け出られている場合に、前夫が知らぬまま戸籍訂正されることについては,問題があるといわざるをえないでしょう。
(参考記事)
「無戸籍」一斉申し立てへ 実父に認知求め調停離婚後300日以内に生まれた子は「前夫の子」とみなす民法の規定により、無戸籍17 件となっている約20人が19日までに、実父に認知17 件を求める調停を7月上旬に一斉に各地の家裁に申し立てることを決めた。
支援組織の特定非営利活動法人(NPO法人)「親子法改正研究会」によると、無戸籍の子どもが実父に認知を求める調停手続きが可能かどうか最高裁に説明を求めところ、最高裁側から「可能」との回答があったという。
調停が成立すれば、実父の子として出生届が受理され戸籍が得られる。ただ調停の推移によっては「前夫の子ではない」という立証を求められる可能性がある。
これまで実父の子として戸籍を作るには、前夫との親子関係がないことを確認するために調停が必要だったが、家庭内暴力などが原因で離婚した場合、前夫の協力が得られないケースも多かった。
2008/06/20 【共同通信】
この制度は,子の地位の早期安定と家庭の平和を守ることにあるとされているので,前夫との家庭が破綻している場合は,同制度の趣旨は妥当しないことは明らかです。血縁関係のある父が現実に当該子を養育している場合には,血縁関係のある父の方に早期に父子関係を成立させるべきです。このような場合でも,嫡出推定規定を形式的に適用して,当該出生子に前夫との嫡出子として身分を取得させ,しかもその嫡出性の否認について厳格に制限するとなると,法解釈としても問題があることが明らかであるといえます。
夫婦が不和になり,別居中に,妻が夫以外の男性と性的関係をもち,離婚後300日以内に出生した場合の事例において,母が出産前に当該男性と婚姻し,出生した時点が再婚後200日以内であった場合を検討します。
上記事例においても前夫の子と推定されるので、前夫の子として出生の届出をしなければならず、前夫以外を父としない出生届は受理されません。
そうすると,母は,出生子を後夫との子として出生届出をする方策としては,前夫の嫡出推定が排除されることを前提として,前夫との間で親子関係不存在確認をし,その後に,後夫の嫡出子として届け出ることになります(母と後夫との婚姻後200 日以内の出生子であるので,嫡出の推定を受けないが生来の嫡出子として扱われるので問題はない。)。
ところで,先に述べたとおり,本事例でも,前夫が当事者となることを避けるために,母としては,後夫を相手方として認知請求を申し立てることが考えられます。
婚姻後200 日以内に出生した子は、推定を受けない嫡出子であり,前述のとおり,嫡出推定規定の適用がない以上,たとえ戸籍上,前夫の嫡出子としての記載がなされていても,非嫡出子であることを前提として,血縁上の父に対し,直接認知請求を起こすことも可能なはずです。
しかし,理論的には、当該子が嫡出推定の排除がなされた場合には,もともと母と後夫との婚姻後200日以内の出生子であるので,生来の嫡出子として扱われるべき地位にある以上,当該子について後夫が認知することはできないとも考えられます。
しかしながら、当該子は,後夫との関係では生来の嫡出子として扱われるにしても,もともとは民法772条の推定を受けず,母は嫡出でない子としても出生届をすることができるのであるから,かかる場合に認知請求手続を否定するのは妥当ではないと考えられます。
つづく
非嫡出子の父子関係をめぐる問題
非嫡出子の父子関係は,自己の子であることを承認し,届け出ることによって、成立します(認知)。
国会でも問題となった(http://www. shugiin. go. jp/index. nsf/html/index kaigiroku. html)。
24) 民法733 条1 項は,「女は,前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができな い。」と定めている。そうすると,いわゆる再婚禁止期間の経過後の再婚においてもこのような事例が生じることがある。 25) この議論経過については,戸籍事務連絡協議会「第194 回東京戸籍事務連絡協議会」戸時704 号( 2000 )26 頁を参照。 なお,本事例においては,かかる見解に立つと前記⑵ウと異なり,認知の申立ての受理段階から,再婚後200日以内の出生 子であることが明らかであると,その申立ての適否が問題となりうる。 26) 認知請求が認容された場合の戸籍の記載方法については,戸籍817 号( 2008 )131 頁参照。 て成立する任意認知(民法779条,781条)と,任 意認知がされていない場合には,裁判による強制 認知( 787条)がある。いずれにしても,前記第 2 のとおり,嫡出父子関係については,血縁主義 的な考え方を採用することに問題があるとされて いるが,非嫡出父子関係については,血縁主義的 な考え方が貫かれている(真実志向が強い。)27)。
したがって,非嫡出子の父子関係における認知請求手続については,嫡出親子関係存否の審理とは違って,DNA鑑定 による親子鑑定を先行させて心 証形成をすることに特に問題があるわけではなく,場合によっては,事実関係に争いがあるため,当事者間の合意を形成する手段として,性交能力の欠如など当事者間のプライバシーを暴き立 てるのを回避するために行うことも許されるであ ろう28)。
また,非嫡出子に関する親子関係不存在の確認 ないし認知の無効と権利濫用事例においても,従 来,最高裁判例は,権利濫用を認定することは消 極的な傾向があるとされた29)。これについては, 非嫡出子親子関係については,血縁主義を基に判 断していると考えられてきたところである。 2 しかしながら,同種事例における近時の2 つの最高裁判例(最二小判平18. 7. 7民集60 巻6 号 2307頁,最二小判平18. 7. 7家月59 巻1 号98 頁)は, 権利濫用を肯定するに至り,血縁主義の相対化・ 謙抑化傾向が指摘されているところである30)。 そうすると,最高裁判所の裁判例の傾向に鑑み ると,嫡出親子関係ないし非嫡出子親子関係とも に,前者については外観説に基づき,後者につい ては,権利濫用論によって,血縁主義の採用につ いて謙抑的になっている点で軌を一にしていると みることもできる。
第4 まとめ
離婚後300日以内の出生子を巡る問題について は,DNA鑑定 による親子鑑定の費用の低廉化,無戸籍の子の出現を防ぐ実際上の必要性等から,嫡出推定=嫡出否認制度の空洞化の傾向が学説等から 指摘されて久しい。この点については,特に母側 の申立てについては,これを是認すべきとする立場が強まっているという印象を受ける。しかし, 嫡出推定制度=嫡出否認の空洞化には,DNA鑑定 による親子鑑定によって結論付けることを優先する 鑑定万能主義=血縁主義につながるおそれがある。そして,この鑑定万能主義については,批判が強いことは前述のとおりである。
この観点からみると,最高裁判所の裁判例は, 嫡出推定規定の排除に関して,外観説を採り,鑑定万能主義を排し,他方,23条審判手続において は,合意形成を旨とする家庭裁判所の実務に照ら して,合意説的運用を行い,柔軟に離婚後300日 以内出生子の身分を早期に確定させる運用がなさ れていることについては,十分な理由があるよう に思われる。
そして,非嫡出子父子関係についても権利濫用論を介在して,血縁主義の採用について謙抑的と 27) 認知者は,常に,真の父ではない旨を主張・証明することができる。認知の本質は,事実の承認と解すべきこと,身分関係は,真実性を重視する要請があることが理由であるとされる(認知者の原告適格肯定。ただし,〔反対〕大判大 11. 3. 27民集1巻137頁,大判昭12. 4. 12判決全集4 巻8 号6 頁,東京高判昭62. 9. 21民集43 巻4 号205頁,東京高判昭63. 8. 31 判タ694号161頁)。
非嫡出子の親子関係確認においては,「詳細な証拠調べをする前に問題となる子と被告たる男性との間の父子関係に つき法医学鑑定(親子鑑定)を実施し,その結果に応じ,必要な限度で他の証拠調べを実施する運用が常識となっている」 (窪田もとむ・家族法判例百選〔第5版〕39 事件)と指摘されている。また,DNA鑑定 による親子鑑定が安価でかつ容易になってきた状況も併せて考慮すると,この領域では,科学的鑑定が多用されることとなる。
29) 最二小判昭53. 4. 14家月30巻10号26頁。
次のような認知者の死亡後の相続争いの事例(事例の引用は,梶村太市ほ か編『家事事件手続法』〔有斐閣,2005 〕326頁による)において,下記①の認定事実を基に,原審と同様に権利の濫用を否 定し,下記②の判示をした。 ① X1 女は非嫡出子Yを出産した。その後X1 女は本件認知者であるA男と婚姻。A男はYを不憫に思い,自分の子と して認知の届出。その後,X1 女とA男との間に生まれた実子のX2 が婿養子をとったことから,A男やX1 ・X2 らとYと の間が次第に円満を欠くようになった。A男死亡後,Yが遺産分割の調停の申立てをなしたので,Xらは,Yを相手方とし て認知無効確認の調停を申し立てた。不調終結ゆえ,X1 ・X2 から本件・認知無効確認の訴えを提起した。 ② 「このような事実関係のもとにおいては,認知者の妻と子の被認知者を相手方としてする認知無効確認請求が,たと え被認知者の実母である右妻において認知後五十数年の間,認知者と被認知者との不真実の親子関係を放置しており,か つ,認知者の死亡後になされたものであるとしても,右請求権の行使は信義に反せず,したがって権利の濫用に当たらな い」。 なお,最三小判平9. 3. 11 家月49 巻10 号55 頁は,同様の事例で同趣旨の結論。 30) 若林昌子・平19 主判解51 頁,水野紀子・平18 重判解87 頁。
なっている近時の最高裁判例をも併せ考慮すると,父子関係の確定についての裁判実務におい て,DNA鑑定 による親子鑑定の採否については,慎 31)
ただし,このように人事訴訟手続と23条審判手続を分離して考察することを正面から認めることは,解釈論上は, 実は問題がある(合意説の難点である。)。合意に相当する審判の法的性格は,非訟事件であるが(家審法7条),これは広 義の民事訴訟手続に属する人事訴訟の代用手続として位置づけられるものであるから,その性質に反しない限り,民法や人 事訴訟手続法など嫡出否認及び訴えに関する実体法や手続法に従って行われるべきだからである。 また,23条審判は,当事者以外の利害関係人の異議申立てによって失効してしまう危ういものであって(家事審判法25 条2 項),東京高裁は,父子関係不存在が確定すると,認知請求されることになる血縁上の父と見られる者を利害関係人と 認め,その異議申立てを適法としていることからすると(東京高判平18. 10. 13家月59 巻3 号69 頁),23条審判について,本 来,当事者の合意で簡易に終わる完結した手続とみることができない。
他方で,23条審判は,同時に人事訴訟の簡易手続た意義をもつものであるから,すべての点において人事訴訟手続と同 一に取り扱わなければならないというものでもない。たとえば,その管轄は,必ずしも人事訴訟手続法の定めるところに従 う必要はなく,家事審判法規の定めるところにより,事件関係者の都合を考え,もっとも便宜な家庭裁判所に申立てあるい は移送し,そこで事件を処理し得ることが明文で規定されているし,また,嫡出否認の訴えにおける被告適格を有する者か ら原告適格を有する者を相手方として調停申立てがなされていても嫡出否認に関する実体的要件をすべて具備しておれば, その当事者間になされた合意に相当する審判も有効と解してよいとされる(岡垣学「嫡出否認の訴について㈠」判タ300号 8 頁)。 問題は,両者をどの程度異質な手続とみるかということにかかる。 重に判断することが求められているといえる。
松村総合法務事務所(DNA鑑定ローカス大阪) は、総務大臣により資格を与えられた行政書士が運営しています。